第6回(最終回):3つの特別な動きでスモール・ハピネスを味わう「スモール・ハピネス」で仕事も生活もポジティブになる?!(2/2 ページ)

» 2020年09月23日 07時02分 公開
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 まとめると、普段よりも力が抜けた軽い状態で、自分に合った等速で、体をひねっていくと、軽い体がすうっと動いていく感覚を得られれば大成功だ。速度が多少ずれていたり、力が抜け切れていなくても構わない。上半身をひねるという単純な動きにおいて、今まで味わったことのない、決して大感激するようなものではないにせよ、ちょっといい気持ち(スモール・ハピネス)を味わえればそれでいい。

(3)第3の特別な動き方は「イメージ上の動き」である。

 今度は、椅子に座ったまま目をつぶって、体は静止したままで、体をひねっていくことをイメージする(目を開けたままの方がイメージしやすければそれでもよい)。その際、(2)でやったように、力が抜けた状態でひねっていくありようをイメージする。単に絵として自分の体をひねっているのをイメージするのではなくて、イメージの中で実際に体をひねっているときに生じる「体感」を味わおうとする。

 いきなり体感を味わうことができなければ、(イメージではなくて)実際に体をひねってみて、実際の体感を確認した上で、その記憶が冷めないうちに、再び体の動きを止めて体をひねっていくありようをイメージして体感を味わおうとするとコツがつかめるだろう。

 イメージの中で、(2)で実際に体を動かしたときに味わった、静かに軽くすうっと動くときの「よい気持ち(スモール・ハピネス)」が味わえれば第一段階の成功だ。

 次の段階は、イメージにおける動きの体感の質を高めて、実際に体を動かしたときには味わえないような体感を味わう段階だ。それは、体をひねっていく際の「体」のイメージを、中身が詰まった肉体から、中身が軽い気体(エアー)というイメージに変えることで可能となる。常識的には肉体は固体であるから、その肉体を気体としてイメージするといわれてもぴんとこないかもしれない。そこで次のような工夫をほどこす。

 まず、(2)の要領で肉体から力を抜いていくときに、体が軽くなり、軽さが極まって気体になるというふうにイメージする。中身の詰まった体を、力を抜きながら空っぽにしていくイメージだ。イメージの中だから、思い通り、かつ、丁寧に、精妙に力を抜いてみよう。

 そのように力を抜くおかげで、体がさらに軽くなるという体感を味わう。そういうイメージ上の練習を少し行ったら、再び(2)に戻って、実際に体をひねってみる。そのとき、体が前よりもさらに軽くなる感覚を味わえれば大成功だ。イメージ上で丁寧な力の抜き方を練習したおかげで、実際に体を動かす際の力の抜き方も精妙になった効果である。

 結局のところ、イメージ上でも実際上でもよいから、力を精妙に抜くことで、自分が普段まとっている肉体的・固体的なよろいが少しほどけて、普段は体感できていない気体的な自分(素の自分)と、少しでもつながることができればよい。素の自分とつながって一緒に動く体感はスモール・ハピネスそのものだ。

 椅子に座ったまま体をひねることを例に用いて3つの特別な動き(スモール・ハピネス・ムーブメント)を紹介した。

 もう一つ、3つの動きを練習・実践するのに適した例として「歩く」ことについて話したい。自分固有の速度で歩き、その際、体全体の力を抜いて最小限の力で歩くようにする。これで第1と第2の動き方はカバーできる。速度の選択に注意することと、普段より力を抜くことで、いつもより、少し軽く、すうっと体が動く感覚がつかめれば成功だ。

 合わせて、(3)のイメージ練習のところは、実際には歩かずに、歩くことをイメージして力を抜く練習をしてもよいが、ここでは少し異なる工夫を紹介しよう。

 歩き始めるところで、足は動かさずに胸だけちょっと前に突き出す。徒競走でテープを切るときに胸をちょっと突き出す動きを、極めてそっと行う。それは胸をちょっと突き出すのだが、自分でも気のせいかなと疑うくらいほんのちょっと微かに突き出す。そのとき体の力を抜いておく。というか、力をまったく入れなくてもすむくらい微かに突き出す。

 突き出したら、微かに引っ込める動きも加えて、突き出したり、引っ込めたりする。(外から見ていては見えないような)このような微かな動きを「微動」というが、これでもう十分微かな動きになったと思っても、自分の裏をかくようにさらにもっと微かな動きにしていく。要は、力を抜いて胸を前後に微動させればよいのだが、このような微動を少し続けると、突き出す胸の感覚が、軽くて薄くなってきて気体(エアー)的になってくる(上半身をひねるときの(3)と同じ感覚だ)。

 この気体感覚がつかめたら、今度は、歩いている最中に胸をちょっと突き出してみて同じ気体感覚をつかもうとする。気体感覚は、初めは明確にはつかめなくて、何かそこにあるな、でも気のせいかなくらいでよい(実際、それは気体感覚のせいなのだ)。

 慣れてくると、エアーが胸よりもほんの少し先に動いているかのように感じられ、そのうち体全体の体感がエアー(気体)になってくる。このエアー感覚は歩いている間中継続する。いきなりエアー感覚をつかむのは難しいだろうが、歩いているときの体がほんの少し軽く感じられるようになれば十分だ。軽い体で歩くとそれだけでちょっとハッピイで、しかも、そのハピネスは歩く間中続く。

 座ったまま体をひねることと歩くことに即して、3つの特別な動き方について述べたが、これは、日常的なあらゆる場面で練習・実践できる。食事におけるかむ速度でもいいし、箸やスプーンの動きでもいい。お風呂に入るときのさまざまな動作でもいい。その他、何かしているときに、短時間でいいから、「力を抜いた等速運動」をさっと入れてみるとよい。

 場や時を変えて、さまざまな動きで、力を抜いた自分の等速を試すとよい。その際、呼吸に注意を向けて、動く前に軽く息を吸って、息をゆっくり吐く間にそれに合わせて動くとよい。

 余裕があれば、目をつぶってイメージ上で動きをさっと復習して体感しよう。あるいは、その動きで微動を練習してみよう。いずれの場合も、長時間練習するより、細切れで、条件を変えていろいろ試すのが、スモール・ハピネス流のお作法だ。

 そのうちに、あなたにとっての、スモール・ハピネス・ムーブメント向きの動きがみつかり、その動きを通じて、軽くてハッピイな自分を体感できるようになるだろう。

 アラビア語でネアカの人を形容して「血が軽い(ダンム・ハフィーフ)」というが、「自分の等速で力を抜いて動く」あなたの中を、軽やかな血の流れにのってスモール・ハピネスが静かに流れ続けるだろう。

著者プロフィール:キャメル・ヤマモト

本名、山本成一。学芸大学付属高校卒、東京大学法学部卒業後、外務省に入省。エジプトと英国留学、サウジアラビア駐在等を経て、人材・組織コンサルタントに転身。外資系コンサルティング企業3社を経て独立する。専門は企業組織・人材のグローバル化・デジタル化プロジェクト。

また、ビジネスブレークスルー大学と東京工業大学大学院でリーダーシップ論の講義を担当。人材・組織論を中心に20冊余りの著作がある。近著は『破壊的新時代の独習力』(日本経済新聞出版)


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