柔軟性の高い売り上げの成長や安定につながる「マーケティング視点のDX」4Pモデルとは
この記事は「経営者JP」の企画協力を受けております。
ビジネス書の著者たちによる連載コーナー「ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術」バックナンバーへ。
この記事は今回2回目の緊急事態が一部の都府県で1月上旬に発出されている中なので関連するトピックに絞って本書と関連づけることとした。というのも、マーケティング視点のDX(デジタルトランスフォーメーション)を達成している企業は、平常時、コロナ禍に限らず収益を確保することができるからであることが分かってきたからです。本書を書いていた1回目の非常事態宣言発出時点では仮説だったことがいくつか検証されたと共に、本書のフレームワークが活用できることが証明されてきたと思っています。
具体的な内容に入る前にまだ手に取っていない皆さまに「マーケティング視点のDX」本書の内容を紹介しましょう。
本書では既存の仕組みのデジタル転換をDX1.0(デジタル化)と呼んでおり、現在主流となっている一般的にDXといわれている取り組みがこれにあたります。デジタル化(DX1.0)はビジネスの改革などに不可欠な要素ですが、多くの日本企業のDXが成功までゆかないのはここに原因があります。それは、将来のビジネス目的や顧客のサービスが見えないまま現在のプロセスを置き換えているからであり、本来は何らかの目的、強いて言えば問題解決(Problem)を行うために実施すべきことを、目的なしに行っているからと考えられます。
マーケティングの4Pは皆さん知っているでしょう。1960年にアメリカの経済学者であるジェローム・マッカーシーによって提唱され、マーケティングの父といわれるフィリップ・コトラー教授が広めたコンセプトでProduct(商品)、Price(価格)、Place(流通)、Promotion(販促)という要素を含んでいます。マーケターや経営者ならほぼ全員が知っているコンセプトです。私が「マーケティング視点のDX」を広めるときに似たようなコンセプトがあると分かりやすいと考え開発しました。
Problem(問題定義): 顧客や自社、業界や社会が抱えている、DXで解決可能な問題を定義します。
本書でも取り上げているラムチョップ店舗の「ウルトラチョップ」はコロナ禍で顧客が来店できないという状況を顧客側から見て、「ウルトラチョップに来店できない」「在宅の食事にバラエティーが少ない」「おいしいラムチョップが楽しめない」といった問題を発見しました。そこでウルトラチョップラボという会員制の通販を開始することにしたのです。現在は1000人を超えるグループとなっています。
多くの場合、このProblemからDX2.0は始まります。そして、解決すべき課題を具体的に定義できればできるほどDX成功の可能性は上がります。しかし実はPrediction(未来予測)から入るケースもあります。本コラム後半で取り上げる(本書未掲載)「にしたんクリニック」がその好例になります。
Prediction(未来予測):自社や関係先、社会全体のあるべき姿や技術動向を予測して理想の姿を描きます。
マーケティング視点のDXの肝となるコンセプトがPredictionであり、日本企業には不得手な領域かもしれません。しかし、それが必要なことはコロナ禍が証明してくれました。どの業界でも今後の世の中のことを考えて対応することは不可欠になりました。例えばにしたんクリニックでは、将来ネットで申し込みを行う郵送形式でのPCR検査が必要になる、短期間で結果が分かり陰性証明書が必要になることを予測してサービス開発をしたことが伺えます。Predictionから入るときは、未来の理想を実現するときに生じる問題を考えてから次のProcessのStepに入らねばなりません。
Process(改善プロセス):解決すべき問題が定義され、未来の理想像が描けた場合にそれを実現するためのプロセスを導入します。
前述したように、多くの企業は「既存の仕組みの置き換え」というプロセスをDXと捉えているために失敗が多いのだと感じます。逆にいうと日本企業は問題と未来の理想像がきちんと規定されていればプロセスの導入は得意領域と考えます。またプロセスの導入は特に経営の関与が重要な部分であり、最後の要素であるPeopleに直結します。にしたんクリニックではイモトのWiFiで培ったノウハウを導入して、クリニック、PCR検査のDXに成功し、躍進したといえるのではないでしょうか。
People(人の関与):実行するために必要な文化・ケーパビリティ教育・組織導入を行います。
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明治学院大学 経済学部准教授