報告書に「今どんな機会が起こっているか」という項目を追加し、報告してもらえば、機会を見失うことはなくなる。機会を一つずつ挙げてもらえば、必ず機会を見つけることができる。先に紹介した企業が、第一ページには機会を列挙することを習慣化していれば、狙った市場ではなかった一般の企業や大学にも売れているという機会に気付くことができたはずだ。そこにより多くの潜在顧客がいることを認識でき、営業マンを行かせ、十分なアフターサービスを提供することもできたはずだ。さらに、競争相手に既存顧客を奪われる事態を回避できたはずだ。できたはずのことができなかったのは、機会に焦点を合わせていなかったからだ。
「今こうして生きているのは、これまでの考え方とやり方が正しかったからだ。だから、この先も生きていくために、今までの考え方とやり方を続ければよい」これが、私たち人間の本能だ。私たちは「変わらないことが安全であり安心」と考えている。だから、変化を機会ではなく脅威と捉えてしまう。
私たちに備わった本能が、問題の解決に注意を向けさせる。現状維持が安心だからだ。変化を拒み、一定の状態を維持しようとする、このような生体の働きを恒常性維持機能と言うらしい。この点は、今回のテーマから逸れるので省略することをお許しいただきたい。
一方、社会は時々刻々と変わっている。変わらないものは何一つない。そもそも機会があるのは、常に何かが変化しているからだ。
私たちの本能をなくすことはできないし、変えることも難しい。しかし、成果をあげるために、「現状維持が心地いいという本能」から離れなければならない。本能は変えられないが行動を変えることはできる。では、具体的に何をしなければならないのだろうか。
ドラッカーはこう言っている。
まず何よりも変化を脅威ではなく機会としてとらえなければならない。組織の内と外に変化を見つけ、機会として使えるかどうかを考えなければならない。特に次の7つの状況を精査しなければならない。
ピーター・ドラッカー
(1)予期せぬ成功と予期せぬ失敗
(2)市場、プロセス、製品、サービスにおけるギャップ
(3)プロセス、製品、サービスのイノベーション
(4)産業構造と市場構造における変化
(5)人口構造における変化
(6)考え方、価値観、知覚、空気、意味合いにおける変化
(7)知識と技術における変化
前記した通り、機会があるのは社会が変化しているからだ。従って、「予想もしていなかったがうまくいったこと」「うまくいっていたことがうまくいかなくなったこと」が必ず起こる。顧客だけでなく、取引先に起こる予期せぬ成功と予期せぬ失敗の変化にも注意を向けることが必要だ。
レイ・クロックはハンバーガー店にミルクセーキのミキサーを売っていた。1店舗に1台売れる程度だった。ある日、小さなハンバーガー店から大量の注文が入った。行ってみると、そのハンバーガー店は当時、類のない方法で極めて合理的な店舗運営を確立していた。やがて彼は、その経営権を買い取り、マクドナルドの店名も引き継いで、巨大なビジネスを作り上げた。それは、取引先で起こっていた予期せぬ成功に注意を向けたことがきっかけだった。
成果をあげる人は、問題に引きずり込まれることなく機会に焦点を合わせている。成果をあげる人はそれを習慣にしている。上記の(2)以降は、機会があればあらためて詳しくお伝えしたい。
(参考文献:次の書籍の中から一部引用させていただいた。『経営者の条件』)
ドラッカー専門の経営チームコンサルティングファーム トップマネジメント
東京都渋谷区出身。ドラッカーコンサルティング歴約33年。外資系コンサルティング会社勤務時、企業向けにドラッカーを実践する支援を行う。中小企業の役員と上場企業の役員を経て、ドラッカーの理論に基づいた経営チームをつくるコンサルティングを行う、トップマネジメントを設立。現在は上場企業に「経営チームの研修」「経営幹部育成の研修」「後継者育成の研修」を行っている。
著書に『ドラッカーが教える最強の後継者の育て方』(同友館)、『ドラッカー5つの質問』(あさ出版)、『新版 ドラッカーが教える最強の経営チームのつくり方 』(同友館)、『日本に来たドラッカー 初来日編』(同友館)、『ドラッカーが教える最強の経営チームのつくり方 』(総合法令出版)、『ドラッカーのセミナー』(Kindle)、『ドラッカーが教える最強の事業承継の進め方』(Kindle)がある。主な連載に『ドラッカーに学ぶ成功する経営チームの作り方』(ITmedia エグゼクティブ)がある。ほか多数。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授