マネジメントというと、上司という立場に立った物言いがほとんどだが、今回の連載では、「部下は上司をどうマネジメントすればいいのか」、という視点で話をしたい。
マネジメントという言葉を聞くと、「部下を動かす方法」「部下の目標を管理する方法」というイメージを思い浮かべる人は多い。まるで、マネジメントは部下を動かす魔法のつえであるかのようだ。マネジメントというと、上司という立場に立った物言いがほとんどだ。今回の連載では、「部下は上司をどうマネジメントすればいいのか」、という視点で話をしたい。
あなたはこんな日々を送ってないだろうか
一度しかない人生。私たちは人生の時間の多くを仕事に使っている。仕事で使うエネルギーのほとんどが人間関係と言っていいだろう。そして、あなたが一番エネルギーを使っているのが上司との関係である。
“自分の評価は自分の能力で決まる――”
残念ながら、現実は違う。あなたの評価を決めるのは、あなた本人ではなく、あなたの上司だ。たとえ、あなたがどんなに優秀であっても、あなたの上司があなたを正しく評価してくれるとは限らない。それが、現実だ。
あなたが受けている影響
あなたの上司が、あなたをどう評価するかで、あなたの給与、あなたの昇給、あなたの賞与、そして、あなたの昇格、あなたの出世まで、何から何まで、あなたの全てが決まる。
恐ろしいことに、あなたの上司は、あなたの年収、あなたの経済力を決定する権限を持っているのだ。上司の評価が、あなたの人生に与える影響はとてつもなく、その大きさは計り知れない。
200年前、私たちの社会では労働人口の90%が力仕事で、知識や技術を使ってする仕事は10%にすぎなかった。
当時、力仕事に従事する人は、「夕方5時までに大きな石を100個運んでください」と指示を受けたら、言われた通りに働くのが仕事の基本だった。上司はただ命令する人、部下は命令に従う人だった。しかし、技術の発達で人間がやっていた力仕事は機械がやってくれるようになり、多くの力仕事は、知識や情報を使って行う仕事に変わった。
今は社会人1年生でも、出社したらメールチェックをするか電話をするか、または打ち合わせをするか、自分で判断して仕事している。新人であっても、その働き方はまるで一昔前の中小企業の社長と同じだ。
知識や情報を使って行う仕事をしている上司の仕事は、「指示や命令を出すこと」ではなく、「方向づけをすること」に変わった。そして、知識や情報を使って行う仕事をしている部下は、「言われた通りに体を動かすこと」ではなく「自分で考えて成果をあげること」に変わった。
今日の社会は、ほとんどの人に上司がいる。働いている人の中で「誰にも報告義務を持たない人」「誰の仕事にも責任を持っていない人」はいない。つまり、今や働いているほとんどの人に上司という存在がいる。
そして、多くの人が上司への対応に頭を悩ませている。それは、上司に対する仕事のやり方を知らないからだ。上司に対する仕事のやり方など学校では教えてくれない。習っていないから知らなくて当然だ。しかし、上司に対する仕事のやり方を知っているかどうかで、上司から、信頼されるか、評価されるか、昇格できるかが決まってしまう。
知識や情報を使って行う仕事をしているあなたは、言われた通りにただ動くという種類の仕事ではないはずだ。あなたは、自分の仕事に責任をもって成果をあげるために日々全力を尽くしているに違いない。
ドラッカーは、「自分が成果をあげるためには、上司に成果をあげてもらう必要がある」と言う。続けて、「だから、上司をマネジメントするというスキルが必要だ」と言う。「上司をマネジメントする」とは、「上司を意のままに操る」「上司をコントロールする」「いかに上司の機嫌を取るか」といったようなものではない。
ドラッカーは、こう言っている。
上司をマネジメントすることは、上司との間に信頼関係を築くことである。ピーター・ドラッカー
上司との間に信頼関係を築くのに、とてつもない努力は必要ない。ほんの少しの工夫さえあれば十分だ。
ドラッカーは、さらにこう言っている。
“上司をマネジメントするとは、上司の仕事をやりやすくし、上司が成果をあげられるようにすることである”ピーター・ドラッカー
ふだんあなたは、自分がやりやすい仕事のやり方、自分の成果をあげることだけを考えてはいないだろうか。お恥ずかしながら、かつての私はそうだった。しかしドラッカーは、上司の仕事をやりやすくし、上司が成果をあげられるようにすることが部下たる者の務めだという。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授