不安でない人は、不安を感じていないのではなく、不安よりもワクワクを感じている。たとえ明日の不安はあっても、それを上回るワクワク感を得るにはどうすればいいのか。
この記事は「経営者JP」の企画協力を受けております。
ビジネス書の著者たちによる連載コーナー「ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術」バックナンバーへ。
リーダーの仕事は、ワクワクを生み出すことです。ワクワクから、スタッフのモチベーションが生まれます。ワクワクから、お客さまの感動が生まれます。ワクワクは、物語から生まれます。
ワクワクの反対は、クヨクヨです。コロナで、世の中が、クヨクヨしています。不安は、取り除くことはできません。
不安でない人は、不安を感じていないのではありません。実際は、不安よりもワクワクを感じています。
「明日はどうなるんだろう」「明日が来るのかどうか分からない」というのが不安の原因です。不安を感じていない人は、「明日が来るのが楽しみ」と思っています。そういう人は、たとえ明日の不安はあっても、それを上回るワクワク感があるのです。
不安を1個取り除いても、次の不安がまたやってきます。結果として、不安は次から次へと湧いてきます。
いかにワクワク感を持つかです。人の話を聞いたり、映画やスポーツを見たりしてワクワクするのは、その物語に感情移入するからです。
大昔に氷河期を迎えたり、せっかく見つけた洞窟にいたのに、より力が強い者たちに追い出されたりした時、人々はその不安を乗り越えるために、みんなで集まって物語を話した可能性があります。
その物語は、どこまでがフィクションで、どこまでがノンフィクションなのか、まったく関係なしに、みんなで物語を共有することによって不安を乗り越えてきたのです。
不安を生むのは「情報」です。情報は、点としてあります。物語は、いくつものつながりの中から生まれます。ポツンポツンと分断した事実だけがあると、そこから人間は勝手に拡大解釈をして怖い展開を想像し、「どうなるか分からない」と考えがちです。
情報化社会では、情報が膨大にやってくる中で、いかに自分の物語を生み出せるかが勝負です。
子どもが寝る時、お母さんはよく絵本を読んであげます。あれは物語を与えることによって、子どもが安心して寝られるのです。
今すべきことは、物語を感じることです。人生においては、情報よりも物語を見つけていくことが大切なのです。
お茶室には必ず床の間があります。床の間には、掛け軸・花・お香があります。あれは一種の亭主の趣向を示しています。この趣向が「今日はこういう物語ですよ」と、物語につながります。
子どもが絵本を読む時は、大人の読み方とは違います。子どもは、絵本の表紙を眺めている時間が長いです。大人は、表紙を見ないでパッと開いて、中の文字を追いかけ始めます。子どもは、文字を読む前に絵を見て、絵から物語を感じます。
現代絵画を見に行くと、「訳が分からない」と言う人がいます。現代絵画は、見る人が物語を半分つくる必要があります。自分で物語をつくる作業を省略して手を抜くと、物語性を感じないので、結果として不安感だけが残ります。そういう人は、「分からないヤツだと思われたらどうしよう」という不安感から、現代絵画に対して攻撃的な見方をしてしまうのです。
古典絵画は、作者の中で物語が完結しています。見る人に知識があれば、物語をつくる作業に参加しなくても物語が分かります。言ってみれば、完成されたプラモデルが古典絵画で、未完成のものが現代絵画です。
床の間の趣向は、説明書が何もないので、自ら積極的に参加して物語をつくる姿勢がないとなかなか味わえません。「これが何であるか」というのは、分かろうとする人には説明してくれますが、分かろうとしないでスルーしている人にはまったく説明してくれないところがお茶会の難しさです。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授