不安を、ワクワクに変えようビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)

» 2021年09月02日 07時09分 公開
[中谷彰宏ITmedia]
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 京都の町が難しいのは、説明を全部してくれないからです。美術館の方がまだラクです。額縁・作品名・図録、「今日の作品目録」も用意してあり、どれが作品で、どれが作品でないかが分かります。

 現実社会において、額縁も作品名もない中では物語を見つけにくいです。隠された趣向をどう楽しむかが大切です。「あいにくのお天気で」という表現は、文化の中にはありません。雨は雨の楽しみ方があります。雨や風の音が聞こえたり、雪が降ったり、寒いことも、それをいかに味わうかという趣向の1つになっています。

 お茶会でのワクワク感は、亭主がつくった隠された趣向に気付くことから生まれるのです。隠された趣向に、気付くことでワクワクが生まれます。

ショーウインドーには、メッセージが込められている。

 「自分はお茶会に行かないから床の間は関係ない」と言う人も、ふだん目にしているものの中に、無限に床の間に当たるものはあります。

 それに気付く人と気付かない人がいるのです。

 例えば、街のショーウインドーは宣伝的なところではありません。ショーウインドーは、お茶室の床の間と同じようなしつらえになっています。そこには文字的な説明は何もありません。立ち止まって眺めなければ物語には気付けません。物語には時間の流れがあるからです。

 代表的なショーウインドーは、銀座四丁目にある和光のショーディスプレイです。日曜日に、中谷塾の遠足で銀座へみんなを連れて行きました。7人のメンバーで喫茶店を探すと、日曜日の午後だったので1軒目も2軒目も満席でした。3軒目にたどり着いたところは、和光向かい側の日産ショールーム2階のカフェコーナーでした。そこで女性は座って、男子は立ちながらコーヒーを飲みました。

 その時、向かいに和光のウインドーディスプレイがありました。ふと見ると、いつもは上にある時計が珍しくショーディスプレイの中にありました。ショーディスプレイは、必ずしもマネキンや商品が置かれているわけではありません。

 和光の時計はふだん、非公開の屋上にあります。ショーウインドーにあるのは屋上の時計とまったく同一でしたが、針が指している時間が違いました。私が見た時は4時を過ぎていましたが、下の時計はまだ3時になっていません。

 よく見ると3・11の東日本大震災が発生した2時46分でした。ちょうど3・11から10年後の1週間だけ、ディスプレイとしてその時計が展示されていたのです。

 和光のショーウインドーの前は待ち合わせをする人が多いです。その前にはちょうど信号があって、多くの人が信号待ちをしています。ほとんどの人は、信号が早く変わらないか見ていたり、これから行く先を見ていたり、スマホを見ています。

 その時、ふとショーウインドーを見るかどうかが分かれ目になります。ショーウインドーを一瞬見て、「ここにこんな時計がある」と思って通り過ぎる人もいます。デジタル時計なら、数字が動く瞬間に立ち会えば分かります。アナログ時計が止まっているというのは、そこで1分以上立ち止まらないと分かりません。上の時計の時間と違うことに気付くためにも時間が必要です。

 ショーウインドーは、道端の花と同じで主張をしません。「ここでこんなイベントをしています」「こんなインスタレーションをしています」ということは何も主張せずに、気付く人だけが気付きます。

 ここが情報と違うところです。「ただひっそりとそこに置かれているもの」にどれだけ気付けるかです。

 ショーウインドーを見て「上の時計と同じだ。大きいんだな。それをここにおろしてきて見ることができたんだ」で終わる人もいれば、「3・11の2時46分だ。進むために思い出そうというメッセージなんだな」と感じる人もいます。

 「あの時を思い出そう」というメッセージで止まってしまう人もいます。物語で一番大切なのは、「終わりがない」ということです。「ここで終わり」というのはなく、どこまでも続いていくのが物語です。

 私が和光のショーウインドーを目撃したのは3月7日でした。この話には続きがあります。4日後の11日の2時46分に、服部時計店の上の鐘が鳴って、あの時計が動き始めたのです。

 「あの時を忘れてはいけないけど、あの時で止まっていてはいけない」というつくり手のメッセージに気付いた時に、改めて「面白いな」と感じたのです。

 ショーウインドーに、メッセージを感じることで、ワクワクが生まれます。

著者プロフィール:中谷彰宏・作家

中谷彰宏・作家

1959年、大阪府生まれ。早稲田大学第一文学部演劇科卒業。博報堂勤務を経て、独立。91年、株式会社中谷彰宏事務所を設立。

【中谷塾】を主宰。セミナー、ワークショップ、オンライン講座を行う。【中谷塾】の講師は、中谷彰宏本人。参加者に直接、語りかけ質問し、気づきを促す、全員参加の体験型講義。

著作は、『不安を、ワクワクに変えよう。』(自由国民社)など、1090冊を超す。 


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