キャリアのオーナーシップを会社から自分に取り戻し、本当にやりたい仕事に取り組もう。
平成の時代を真面目に働き、乗り越えてきた40〜50代会社員の多くが、今、厳しい状況に追い込まれています。時代の変化、それに伴う経営環境の変化によって、会社の中に居場所がなくなりつつあるのです。
一方、人生100年時代と言われるなかで、60歳だった会社員のゴールが65歳、70歳へと先に延ばされつつあり、この先の展望も見えなくなってしまっています。私はそんなミドルがこれからも元気に働くことを願い、2019年に『50歳からの逆転キャリア戦略』、そして2020年に『50歳からの幸せな独立戦略』を刊行しました。キャリアのオーナーシップを会社から自分に取り戻し、本当にやりたい仕事に取り組もうという思いを込めたこれらの本の読者からは、今も多くの感想が寄せられ続けています。
一例を紹介しましょう。
「鬱々としていた自分がいかに恵まれているかが分かった。今の職場で将来のキャリア自律に向けて自分を磨き直したい」
「狭い“会社村”の中にいて、定年後への準備不足を痛感した。自分の棚卸しをしっかり行い将来に備えたい」
「役職定年で自分は終わりだと諦めていたが、まだまだ捨てたものではない! 自分次第で働きがいある仕事に再チャレンジできるという希望を得た」
「定年を目前にして、これからも会社に依存するのではなく、自分の強みを活かした仕事や人生を主体的に切り拓いていこうと思っていたので、とても参考になり、力をもらいました」
これらの言葉からは、「置かれた状況をただ悲観するのではなく、主体的にアクションを起こすことで新たな道を切り拓きたい」という希望が感じられます。人間には、得るものより失うものを大きく評価する「損失回避バイアス」という心理傾向があると言われます。役職定年で職位が下がり、定年再雇用で正社員ではなくなることはつらいことです。
でも、それ以上に数十年にわたる会社員生活で得ているものはあります。幸せはつかむものではなく、気付くものです。ここに気付けた読者が多かったことも、著者冥利に尽きます。
ただし、少なからぬ人が具体的に何をやるかというところまではなかなか見えていません。それを模索している段階にあるという現実も伝わってきました。
「自身のやりたいことの定義が、未完了であったことを再認識した」
「53歳となった今でも自分のやりたいことが見つからず、フラフラしています」
「自分のやりがいのある仕事を見つけるのはなかなか難しいが、今後追求していきたい」
正直な言葉だと思います。
また、長年会社員として働いてきた故の共通する悩みも見えてきました。「会社に依存せず自らキャリアを切り拓く大切さは分かった。でも、自分が本当にやりたい仕事は何か。充実した人生のために何を目指せばよいか分からない」というミドルがやはり非常に多いのです。
定年後、職業人生はまだまだ20年前後もあるのですから、これはとても憂慮すべき事態。しかし、一概に本人たちの責任とばかりは言えません。
同じ職場に20年、30年と勤め、会社の指示命令に従い一所懸命に働いてきたために、今のミドルには自らの仕事やキャリアに関して自問自答する機会があまりなかったからです。会社を離れた自分に何ができ、何がやりたいか──。いきなりそう問われても見当もつかず、不安が募るのも無理もありません。
「大人になっても自分探しか?」と思われるかもしれませんが、他ならぬ「自分」が何を望んでいるのかを理解していなければ、勇気を持って新たな一歩を踏み出すこともできません。ミドルであれ、若者であれ、自分探しに迷走することは考えものですが、「自分がない」生き方はそれ以上に問題だと私は考えます。
しかし、自分がやりたいことを見つけようとしても、まだ何者でもなく成長の途上にある若者に比べ、ミドルの場合は積み上げた経験値が足かせになりがちです。新たな道を模索しようとしても、つい経験値の範囲内にばかり目が行き、未知の領域には尻込みしてしまう。素直に自分探しをすることすら容易ではないのです。
何よりハイリスクなのは、自分がやりたいことについて改めて考えることなく、早期退職を選択したり、定年を迎えたりしてしまうことです。会社を主語とした価値観のままセカンドキャリアを迎えてしまったとき、その人の人生は迷走していくことになります。
では、働き続けてさえいればいいのでしょうか。それも実は正解ではないのです。
今は、定年後の再雇用制度も浸透し、定年後も働き続けるという選択肢もできました。特にやりたいこともなく、会社から離れることもなんとなく不安で、消去法で雇用延長を選択する人も少なくありません。しかし、定年再雇用では重要な役割が任されることはほとんどなく、給料も3〜4割減は当たり前、半分以下になることも少なくありません。当然のことながらモチベーションは上がりません。
すると、自らが選択したとはいえ、会社に対する不満が募ってきます。「長年会社に尽くしてきたのに何でこんな冷や飯を食わされなければならないんだ」という思いを膨らませながら働き続けることになる。このような気持ちは行動にも表れます。1分たりとも無駄な残業はしたくないと、終業の5分前、10分前から片付けを始め、定時が来たらそそくさと帰ってしまう。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授