終身雇用の保証より、どれだけ変化しても活躍できる人材の育成が人を活かす経営の新常識ITmedia エグゼクティブ勉強会リポート(2/2 ページ)

» 2022年02月21日 07時01分 公開
[山下竜大ITmedia]
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 現在の働き方改革は、労働時間短縮、休暇の増加、賃上げ、在宅勤務など、働きやすさが中心。これでは、不満は解消されるが満足度は向上しない。満足度を向上させるのは、仕事内容、責任、承認、達成などです。前川氏は、「優秀な若者が真に求めているのは、働きがいであり、これが仕事の満足度を向上させるのです」と話す。この考え方は、米国の臨床心理学者であるフレデリック・ハーズバーグの「二要因理論(動機づけ理論・衛生理論)」に基づいている。

 また、米国の心理学者であるエドワード・L. デシの「内発的動機付け」も関連があるという。これまでの人材育成は“外発的動機付け”であり、上司が目標を設定し、上司の管理ものとで目標を目指すため、やらされ感が強くなる。一方、“内発的動機付け”は、上司と目標の上位概念である目的を共有し、目標設定や仕事のやり方は部下に任せることで、やる気を醸成できる。任せた仕事の当事者は部下自身となる。

 前川氏は、「上司は管理職から支援職に変わることが必要になります」と話している。

安定とは自分自身も目まぐるしく変化すること

 「会社が存続しなければ、仕事も成長もなく、生活を維持していくこともできません。大学でも10年以上キャリア教育に取り組んでいますが、いまの学生は将来の変化や社会の変動に、不安でいっぱいです。そのため、安定志向に陥りがちです。しかし安定とは、自分自身も目まぐるしく変化することです。世の中が変化し続けているわけですから、自分自身も変化しなければ安定できません。会社も同じです」(前川氏)

 「45歳定年制」が物議をかもした。法律的には実現できないが、コンセプトとして一理あると考えている人は多い。定年が早く来ると、会社依存ではないキャリアを早い時期から考える意識が芽生える。早い時期から準備しなければ、60歳で定年してからのキャリア自律は容易ではない。頭では分かっていても、体がついてこなくなるためだ。

 これまで、終身雇用、年功序列、企業内組合の3つが、日本企業の強みといわれてきた。しかし平成の30年間で、様変わりしている。終身雇用は、自分でキャリアを切り拓く「終身キャリア自律」という意識に変わり、年功序列は、市場価値序列、つまり労働市場において、自分がどれだけ評価されるかが重要になった。企業内組合も、業界・職種・雇用形態別互助に変化していくだろう。

 人を大切にするということは、会社も、個人も変化することで、人生100年時代のいま、終身雇用はどの会社も保証できなくなってきている。どんな変化が起きたとしても、プロフェッショナルとして働き続けることができる人材に育てることが本当に人を大切にすることなのではないだろうか。メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用へのシフトなど、すでにパラダイムは変わってきている。

 しかし、いきなり欧米型のジョブ型雇用に変化して、社会的セーフネットも未整備のままでは若年失業者が生まれることになり望ましくない。そこで、日本型雇用のよいところは残し、古くなってきたところを改善するハイブリッド型雇用が有効になる。ハイブリッド型雇用とは、人材育成への投資により、人を育てる長所を活かし、若年人材流出のリスク増大を抑える雇用である。人材育成で一人前になったら、企業と個人が対等にパートナーシップを結ぶことができる世界が理想だ。

 前川氏は、「繰り返しになりますが、現代の人を活かす経営の新常識とは、終身雇用を保証するより、どんな変化が来ても自信をもって活躍できる人材を育てていくことです。もちろん私個人の考えなので、全てが正解というつもりはありません。各社・各人いろいろな考え方があるので、1つでも使えるものがあれば活用してもらえれば本望です。経営者や人事担当者であれば会社の変革に、管理職であれば自分の組織や自身の働きがいに活かしてください」と講演を終えた。

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