「大量生産・大量消費・大量廃棄」を前提とする線形経済(リニアエコノミー)は限界を迎えつつあり、製品・資源の価値を極力長く保全・維持し廃棄の最小化を目指す「循環型モデル」の確立が分野横断的にますます求められている。
国際的な資源需要の増加・価格高騰に伴う資源リスクや、アジア諸国の廃棄物輸入規制などに伴う廃棄物処理システムの機能不全などを背景として、「大量生産・大量消費・大量廃棄」を前提とする線形経済(リニアエコノミー)は限界を迎えつつある。換言すれば、製品・資源の価値を極力長く保全・維持し廃棄の最小化を目指す「循環型モデル」の確立が分野横断的にますます求められている状況だ。
特に資源リスクの観点では、昨今の地政学上のリスクを踏まえ、希少資源の自国安定調達に対する貢献を果たす意味合いも大きい。後述するLiBやモーターにおけるレアメタル・レアアースのように、希少資源を中国などの特定国からの輸入に頼るのではなく、リサイクルを利活用して自国内で安定調達する仕組みづくりが求められているのだ。
現に、ウクライナ侵攻をきっかけとして、ロシアに供給を依存するパラジウムの国際価格は急上昇し、ウクライナが生産の7割を担うネオンガスは調達困難になっている。また、米中関係の悪化により、レアアースにおいて圧倒的なシェアを有する中国からの資源が調達困難になる恐れもある。そうした中、アメリカはバッテリー原料がアメリカ又はFTA締結国から一定割合以上供給される場合のみ補助金の対象とするなど、既に自国での安定調達に向けた動きを加速させている。こうした地政学的な変動を踏まえて、循環型モデルに取り組む意義・魅力度は増している一方、今手掛けないと手遅れになる恐れがある潮目に来ている。
規制面から見ても、「そもそも循環型でなければ経済活動を営めない」ような動きも出始めている。例えば、米国カリフォルニア州では、2032年までに全ての包装材をリサイクル・堆肥化可能とすることを義務付けている。また、EUでは、欧州グリーンディールの取組みの一環として、LiB(リチウムイオン電池)に対するリサイクル規制においてリサイクル材料の使用比率目標を定めている、といった具合だ。
循環型モデルは投資家からの注目度も高い。例えば米BlackrockによるCircular Economy Fundの組成(2019年10月)など、サーキュラーエコノミーに着目した金融商品や民間投資の動きが加速している。
このように、線形経済が限界を迎える中、行政や投資家等の後押しもあり、循環型モデルに対する期待値は日本・グローバルにおいてますます高まりを見せている。
循環型モデルに対する期待感は大きい一方、ビジネスとして見るとこれまで順風満帆だったとはいえない。むしろ、コスト面を加味した際に事業として成立しない、経済合理性を見いだしづらい、という点が壁となっていた。
典型的なハードルとして、例えば製品・部品をリサイクル・再利用するための「回収システムの確立」が挙げられる。国を跨いでサプライチェーンが複雑化している状況において、リサイクルに値する十分な量の部品を回収し、製造場所に返す物流網をいかに構築するか/回収量を向上させる・かつ安価に行うための技術をいかに確立するか、が循環型モデル構築を阻むハードルとなってきた。当該回収システムにおいては、リサイクルプロセスにおいてエネルギー・GHGの排出量抑制を担保する技術開発も求められる。また、PETボトル、家電、自動車などリサイクルが進展する分野がある一方で、後述するタイヤ業界など、そもそもサーマルリサイクル以外の手法(メカニカルリサイクル、マテリアルリサイクル、ケミカルリサイクル)の技術確立がネックとなってきた分野も一部存在する。
他方、直近では、従来立ちはだかっていた「経済合理性の壁」を乗り越えつつ、循環型モデルに資する技術開発や仕組み化を図る成功事例も出現しつつある状況にある。以下、幾つかの部材分野を取り上げ、具体例を見てみよう。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授