欧・中・韓の参入で成長が加速するインドのEV市場(1/2 ページ)

インドの自動車市場の成長が著しい。2022年には、販売台数ベースで日本を抜き、世界第3位の市場に浮上した。それだけではない。インドのEV市場が胎動している。地場系はもちろん、欧州・中国・韓国系の有力自動車メーカーが相次いで参入し、市場が急速に立ち上がり始めている。

» 2023年03月22日 07時01分 公開
[伊澤範彦ITmedia]
Roland Berger

日本を抜き世界第3位に浮上したインドの自動車市場

 SIAM(インド自動車工業会)が2023年1月13日に公表したデータによると、インドの2022年(1月〜12月)の国内新車販売台数(乗用車・商用車合計)は、約473万台に達し、同期間における日本の約420万台を上回り、中国・米国に次ぐ世界第3位の自動車市場に躍り出た。

 インドの自動車市場は、引き続きの人口増加(2023年中には、人口減少に転じた中国を抜いて、世界最多となる見込み)と、モータリゼーションの進化(二輪から四輪への移行)の掛け算により、更に拡大して行くことが想定されている。

 販売台数公表とタイミングを合わせる形で、1月13日から18日までの6日間に亘り、デリー首都圏のグレーター・ノイダにて、SIAM・ACMA(インド自動車部品工業会)・CII(インド工業連盟)による第16回Auto Expo 2023が開催された。

 Auto Expo 2023では、インド市場で激戦を繰り広げる世界各国の自動車メーカーによる新車発表が相次いだ。特筆すべきは、各社が、既にEV展開を積極的にアピールし始めている点であろう。

地場系・中韓系・欧州系が相次いで参入するインドのEV市場

地場系・中韓系・欧州系の主要プレイヤーによるインドEV参入動向

 2021年時点で、インドのEV普及率はわずかに0.2%と、ないに等しい水準であった。しかし、地場系最大手(全体では、Marti SuzukiとHyundaiに次ぐ第3位)の自動車メーカーであるTata Motorsによる積極的なEV攻勢により、2022年に市場は急速な立上りを見せた。2022年11月9日には、Nexon EV・Tiago EV・Tigor EVの3車種により、Tata Motorsの累計EV出荷台数は5万台を突破している。最初の車種Tigor EVを2021年8月に上市してから、わずか1年余りでの快挙である。

 現状、インドのEV市場は、タタ財閥の総力を結集してEV普及に必要なエコシステム(充電網、販路、バッテリー製造など。総称して「Tata UniEVerse」)をそろえたTata Motorsの一強だ。しかし、EV市場の急速な立上りを受け、その他のプレイヤーも参入を加速させている。従来のICE車市場では、日系のMarti Suzukiがシェアの半分を占める構図が長らく続いて来た。しかし、新興のEV市場では、競争環境が異なり、地場系・中韓系・欧州系メーカーが主要プレイヤーの顔触れとして並ぶ。

Tata Motors一強の背景にある、タタ財閥のEVエコシステム「Tata UniEVerse」

 まず、地場系では、前述のTata Motorsに加え、シェア第4位のMahindra & Mahindra(以下、Mahindra)もEV事業を積極的に推進している。

 Tata Motorsは、Auto Expo 2023で、新たにSafari EV(SUV)・Harrier EV(CUV)・Altroz EV(サブコンパクトカー)の投入を、また、それに先駆けた2022年12月には、Punch EV(サブコンパクトCUV)の投入を矢継ぎ早に公表している。この4車種は、Nexon・Tiago・Tigor同様、既存のICE車種をEV化しているにすぎない。しかし、EVポートフォリオを急速に拡大することで、Tata Motorsは急成長するEV市場で支配的なポジションを築こうとしている。

 また、既存ICE車種のEV化に加えて、Tata Motorsは、完全なるEV新車種であるCurvv(SUVクーペ)、及び次世代の「Gen 3」アーキテクチャに基づくEVであるAvinya(SUV)のコンセプトも公表しており、EV開発に掛ける熱意はすさまじい。

 一方のMahindraも、2023年1月25日より、初のEV車種であるXUV400の予約受付を開始している。Mahindraは、VolkswagenのEVプラットフォームである「MEB」を採用した車種を、2025年までに5つ投入すると公表しており、XUV400はその第一弾に当たる。XUV400は、Tata MotorsのNexon EVの競合車種であり、2023年中の販売台数目標は、強気の2万台だ。

 Tata MotorsもMahindraも、自国ながらICE車市場ではMarti SuzukiやHyundaiという外資系の後塵を拝しており、EV市場では主導権を握ろうとする意気込みを感じる。両社共、EV事業を夫々Tata Passenger Electric Mobility(TPEM)、4 Wheel Passenger Electric Vehicleという独立会社として切り離し、経営に機動力を持たせた上で、前者はTPG Rise Climate Fund、後者はBritish International Investmentという外部のインパクト投資家からも資金を受け入れることで、潤沢な開発資金を確保している。

 翻って、中韓メーカーのインドEV市場参入を見てみると、中国系ではBYD AutoとMG Motors、韓国系ではHyundaiが積極化させている。

 中国最大のEVメーカーであるBYD Autoは、2022年8月にミニバンのe6を投入してインドEV市場に本格参入しており、同年12月には、人気のSUVセグメントで、Atto3を上市するなど、事業を拡大している。加えて、Auto Expo 2023では、第3弾となる高級セダンのSealを、2023年第4四半期までに投入することを公表しており、2023年中の販売台数1.5万台を目標に掲げている。

 一方、中国の三大自動車メーカーであるSAIC(上海汽車)傘下の新興国向けブランドMG Motorsは、既にインドICE車市場には参入済みだが、ハッチバックのMG4 EVをAuto Expo 2023で披露しており、EV市場への参入に向け、消費者の反応を伺っていると語っている。

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