脱プラットフォームや自前化の動きは2サイドプラットフォーム論では説明できない(1/2 ページ)

プラットフォームという言葉は、英語の日常語から産業界で利用されるようになり、さらにIT産業や自動車産業で使われるようになった。この言葉をアカデミックの世界に持ち込んだのは日本の研究者である。プラットフォームの理論はどのように発展してきたのか。

» 2023年04月20日 07時01分 公開
[山下竜大ITmedia]

 「日本から発信する経営分野の独自理論」をテーマに開催された「エグゼクティブ・リーダーズ・フォーラム(企画運営:早稲田大学IT戦略研究所)」に、早稲田大学 IT戦略研究所 所長で、ELF 代表幹事 早稲田大学 ビジネススクール(WBS)教授である根来龍之氏(4月1日より、名商大ビジネススクール教授 兼 大学院大学至善館 特命教授)が登壇。「プラットフォームをめぐる新理論」をテーマに講演した。

不足している日本の経営学の海外発信

早稲田大学 IT戦略研究所 所長、ELF 代表幹事 早稲田大学 ビジネススクール(WBS)教授 根来龍之氏

 「日本の経営学の海外発信は少なく、発信は不足しています。経営学分野で、海外で評価される研究発信が少ない理由は、そもそも英語での研究発信が少ない、未だに輸入学問の域を出ない、海外の日本への関心の低下です。特に深刻なのは、海外の日本への関心の低下です。これから海外発信するなら、欧米理論の後追い的研究ではなく、しかし日本特殊論でもなく、海外にも通じる普遍性を持つ独自理論を発信することが必要です」と根来氏は話す。

 欧米で評価されている日本の学者の研究の代表として、1980〜1990年代に野中郁次郎氏が発信した「アップ・ダウン・マネジメント」や「スクラム開発」「暗黙知と形式知(SECIモデル)」「知識創造企業」などの理論があるが、海外での評価の背景には当時の日本企業の成長と存在感があった。

 しかし日本企業の強さを背景にした研究は、今後の発信力にはなりえない。日本企業だから強いではなく、グローバルに成功しているから強い日本企業になることが必要。経営学の理論の発展に貢献するためには、研究の前提となる普遍的な「概念」について、新しい「構成概念」を提案・発信することが重要になる。この場合、日本の特殊性を示す事例研究は、今後の海外発信にはふさわしくなく、世界の経営学の発展に貢献するのは難しい。

 根来氏は、「欧米の既存理論と、世界的な新しい現象とのギャップを埋める研究をしなければ国際貢献はできません。私の研究分野で具体的に示すと、国際的に主流である“2サイドプラットフォーム論”ではないものを提案したいと考えています。私の観察では、脱プラットフォームや自前化の動きは、2サイドプラットフォーム論では説明できません。そこで新しいプラットフォームのフレームワークとして“相互作用論”を提案したいと考えています」と話す。

既存理論と新しい現象のギャップに理論の発展がある。

 例えば米国アマゾンは、検索データから売れている商品を調べ、模倣品を自社のプライベートブランドとして投入してくることがある。そのためアマゾン依存をやめる企業が出てきている。日本でも、ZOZOTOWNで、出店料が高い、ZOZOTOWNのセールが自動的に適用される、低価格出店者の増加で自社のブランドイメージが毀損される、ZOZOのプライベートブランド開始への不満などの理由から、2019年にZOZOTOWN離れが起きた。

 「これが脱プラットフォームであり、プラットフォームに頼らなくてもビジネスができるD2C(Direct to Consumer)の世界が拡大しています。米国では、2018年〜2022年の4年間でD2Cの売り上げが2倍に拡大しています。また、例えば米国のスターバックスは、自社で決済システムを持っていて、彼らの電子マネーの普及率はかなり高いことが知られています。これは、自前化の流れです。脱プラットフォームの動きは、日本特殊な動きではなく、アメリカでも起こっていることだということが重要です。」(根来氏)

既存プラットフォーム理論の発展の歴史

 プラットフォーム(以下、適宜PFと表示)という言葉は、元来は、「周りの部分よりも高くなった水平で平らな場所(台地)」を意味する。英語圏では、スピーチ用の演台、政治要綱、土台、乗降口などを意味する日常語として使われていた。

 IT業界では、日常的用語の延長として、1970年ごろから使われ始めたと考えられ、情報システムの基盤になっているものをプラットフォームと呼び、それはハードウェアの場合(例:メインフレームコンピュータ)も、ソフトウェア(例:Windows)の場合もある。さらに90年代から、インターネットのディレクトリーサービス(例:Yahoo!)をプラットフォームと呼ぶようになり、さらにその延長で仲介ビジネス一般をプラットフォームと呼ぶようになったのだと思われる。

 アカデミックの世界にプラットフォームという言葉を持ち込んだのは、実は日本人研究者である出口弘氏で、1993年の経営情報学会誌の論文に「何らかの装置やソフトウェアの上で何らかのサービス提供が可能となる、(前者の装置やソフトウェア)産業をプラットフォーム提供産業と呼ぶ」と述べている。ただし、米国の研究者もプラットフォームという言葉は使っていなかったが、同様の概念は発表していた(例えば、Rayport & Svioklaの1994年の論文)。

 欧米の学界では、プラットフォームという用語は、英語の日常語に近い共通部品という意味で使われることが多かったが、90年代後半になってOS、ゲーム、仲介ビジネスの研究で使われるようになり、それが2サイドプラットフォーム論へと発展した。

 根来氏は、「2サイドプラットフォーム論は、プラットフォームは2つのサイドをつなぐものという考え方です。例えばゲーム機メーカーは、ゲームソフトメーカーとゲームユーザーをつないでいます。2サイドプラットフォーム論者は、“2サイド市場とは、異なる2種類のユーザーグループを結び付け、1つのネットワークを構築する製品やサービス”と定義しています。サイドの数は、2サイドでも、3サイドでも構いません」と話す。

プラットフォームは2つのサイドをつなぐものという考え方。

 しかし2サイドプラットフォームの概念は、媒介型PFにはぴったりするが、私が基盤型と呼ぶPFに使うのは違和感がある。媒介型PFは、仲介や決済、コミュニティーなど、媒介するプラットフォームを通じてしか最終ユーザーが補完製品に到達できないプラットフォームのこと。例えば、検索は媒介型PFで、検索したい人は検索エンジンを媒介しなければ検索結果を得られない。

 一方、基盤型PFは、プラットフォームがないと補完製品が成立しないものであるが、プラットフォームが取引までは媒介しない製品/サービスのこと。例えばゲーム機は、ゲームソフトがなければ動かず、ゲームソフトはゲーム機がなければ使えない。しかし、ゲームソフトは、ゲーム機とは別に選択・購入できる。なお、最近のゲーム機のユーザーが登録するネットIDを使った(他社)ソフト販売は、基盤型と媒介型の融合を示すものだ。

 このような融合は、媒介型PFである、例えばFacebookにも見られ、FacebookのIDは他社の媒介型PFのログインIDとして基盤的にも提供されている。プラットフォームビジネスの分類や進化は、根来氏の著書『プラットフォーム最前線(翔泳社)』や『IoT時代の競争分析フレームワーク(中央経済社)』にまとめられている。

『プラットフォーム最前線』にまとめられたプラットフォームビジネスの分類。

 根来氏は、「この本は英語では書けなかったのですが、英語での発信が必要だと感じたのは、同じような概念が書かれた2019年のアメリカの経営学者の本が米国の学会で主流になっているからです。その本がイノベーションプラットフォームと呼んでいるものは、私の基盤型プラットフォームとほぼ同じで、トランザクションプラットフォームは媒介型プラットフォームとは同じ概念です。ただ定義が違います。これを見てつくづく英語での発表の大切さを感じました」と話す。

 根来氏は、媒介型、基盤型に加え、外注型プラットフォームといった概念も最近提案している。根来氏は、「現在、英語で発信しようとしているのは、プラットフォームの3分類です。それぞれが相互排反の概念になっているので、定義が明確で使いやすい概念だと思っています」と話す。

根来氏が最近提案しているプラットフォームの3分類。

 ZOZOTOWNは、媒介型のプラットフォームだが、基盤型のプラットフォームも持っていて、リアル店舗の在庫管理システムをバックヤードで支える活動もしている。また飲食店業界は、決済や集客(クーポン)についてプラットフォームなしには商売ができないのが現実だが、脱プラットフォームの動きも生まれている。例えばマクドナルドやスターバックスは、自社アプリ戦略を拡大し、プラットフォーム依存から部分的に脱却しようとしている。

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