ポスト鳩山政権の見極め方――東大の伊藤元重教授(1/2 ページ)

日本ユニシスは年次フォーラム「BITS2010」を都内のホテルで開催した。ポスト鳩山政権を日本国民が見極めるための4つのポイントを指摘した。

» 2010年06月04日 10時36分 公開
[怒賀新也,ITmedia]

 日本ユニシスは6月3日、10回目を迎えた年次フォーラム「BITS2010」を都内のホテルで開催した。基調講演には東京大学大学院経済学研究科の伊藤元重教授が登場。前日の鳩山由起夫首相の退陣を踏まえ、急きょ講演の内容を変更し、ポスト鳩山政権を日本国民が見極めるための4つのポイントを指摘した。

 「中国人などの間で日本人についてはやっているジョークがあります。何だと思いますか?」と切り出した伊藤氏。答えは「日本人と付き合わない方がいいよ。社会主義に染まってしまうから」というもの。

 世界経済がリーマンショックやギリシャ問題に揺れるとともに、アジア諸国を中心とするグローバル競争が激化する中で、危機感に乏しくいまだに国内の論理でしかモノを考えない日本企業が、いよいよ取り残されている実情を端的に伝えたものだ。

 伊藤氏は鳩山政権の8カ月について「日本の経済政策がグチャグチャになった」と指摘する。子ども手当も事業仕分けも、それ自体で日本の経済全体の方向性が決まるようなものではないのに、マニュフェストだからといってそれに縛られすぎたという見方だ。

 「次の内閣が日本の将来を決めることになる」(伊藤氏)

 伊藤氏は、国民が次の政権が「まとも」であるかどうかを見極めるための論点を4つ挙げた。「財政再建」「医療と年金」「成長戦略」「市場開放」だ。新しい政策に、この4つのうち幾つが、どのように盛り込まれているかによって、新政権を見極められるという。

 財政再建については、すべての礎として本格的に取り組む必要があるとする。ギリシャ危機で分かったことは「財政問題が金融問題になったら誰にも止められないということ」。

 「日本は高い貯蓄率という氷の上でなんとかやってきたが、その氷はどんどん薄くなっている。日本の債務残高は800〜900兆円という危機的な状況にもかかわらず、日本国債の利回り(10年もので年1.347%)は低すぎる」(同氏)

 財政の実態と国債価格がかけ離れており、エコノミストはこれを「国債バブル」と呼んでいると指摘する。今後、財政がさらに危機的状況を迎えた場合、最終手段としての消費税増税の議論が出てくることを示唆した。

 3つめの成長戦略について、問題の1つは法人税の引き上げだという。欧州の法人税は27〜28%、米国は25%、アジアでは20%を切る国もある。日本は40%。法人税の高さが国内企業の収益を圧迫し、海外企業による対日投資を抑制する。これでは、企業は国内ビジネスで成長の絵は描きにくい。成長戦略の手法として、法人税率の引き下げを視野に入れる必要が出てくる。そうでなければ、現状での成長戦略の柱はグローバルビジネスということになってくる。

 「今、さまざまな企業が迷っている。どれだけ海外に出ればいいのか」(伊藤氏)

 これについて、同氏は例を出しながら、数の論理を紹介する。

 「NTTドコモのソニー・エリクソン製端末“Xperia”は大ヒットして20万台。一方で、インドで昨年増えた携帯電話の数は1億台。中国も現在5億台で、あと2、3億はすぐに増える」(伊藤氏)

 成長のための戦略として、アジアの市場規模と成長スピードを考える際には、こういった数字への感覚しっかり身につけておくことが重要になってくる。

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