アイデアは「場のコミュニケーション」から生まれる。議論しないで客観視する力を磨こう!伸びる会社のコミュニケーション(2/2 ページ)

» 2012年01月13日 08時00分 公開
[松丘啓司(エム・アイ・アソシエイツ),ITmedia]
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価値観の調和とは

 自分の価値観を進化させるためには、別の価値観との出会いが不可欠です。自分の中に閉じて考えているだけでは、どちらの方向に変わっていけばよいかが分からないからです。他者の異なる価値観に触れたとき、その価値観を取り入れれば、自分は変われるかもしれないと感じることが「気づき」です。その気づきが発想の転換をもたらします。

 例えば、高品質にこだわりを持つ会社が、「柔軟さ」という価値観に出会ったとします。「自分たちはこれまで時間をかけて高品質を追求してきたが、それだけが品質にこだわることでないのかもしれない。顧客ニーズに対して柔軟に応えながら、高品質を追求することも可能ではないか」と気づいたなら、そこに大きな変化が生まれるでしょう。高品質と柔軟さを兼ね備えたビジネスモデルが構築されれば、それはたいへん大きな進歩です。

 このように異なる価値観が両立する解が見出されることを、価値観の「調和」と呼びます。異なる価値観が調和したとき、そこから、これまでとは異なるアイデアが生み出されるようになるのです。ここで次の2点が問題になるでしょう。

 (1)調和を目指すべき、自分とは異なる価値観とは誰の価値観なのか?

 (2)そのような調和はどのようにすれば可能になるのか?

 それぞれの点について、簡単に解説しましょう。

アイデアのきっかけは「場のコミュニケーション」にある

 自分の価値観との調和を図るべき価値観とは、自分の属する「場」の中にある他者の価値観です。それは会社の中の経営者や他部門の価値観かもしれません。あるいは、外部の顧客や会社を取り巻く社会の価値観かもしれません。いずれであっても、自分が参加するコミュニケーションの中にあり、自分の思考や行動に大きな影響を及ぼす可能性のある他者の価値観を指します。

 例えば、グローバル化を目指す企業は、本社の価値観とローカル市場における顧客の価値観との調和を図る必要があります。あるいは、効率性を追求する企業は、安全性に対する社会的要求の高まりとの調和を図る必要があります。

そのような異なる価値観の調和が実現したとき、そこにかならず進歩が生まれます。グローバル化に成功している企業は、グローバルとローカルの価値観の両立を実現しています。製造業の技術は、効率性と安全性の両立を果たしながら進歩を遂げてきました。世の中における新たなアイデアのほとんどが、何らかの価値観の調和によって生まれてきたといってもよいでしょう。

 新たなアイデアに苦しんでいるビジネスパーソンは少なくないと思いますが、アイデアは情報を分析したり、1人で思い悩んだりするだけで生まれてくるものではありません。自分自身の価値観を見据えたうえで、「場のコミュニケーション」の中で異なる価値観との出会いを繰り返すことが、発想の近道といえるのです。

議論をやめて価値観を客観視しよう

 このように書けば簡単に見えますが、実際のところ、異なる価値観を調和させるのは容易ではありません。通常の場合、異なる価値観は「対立」するからです。

 ビジネスの場で、ある人が自分の価値観を表明したとき、それはその価値観が他者に受容されることを求めます。例えば、「わたしたちは最高の品質を目指すべきだ」という主張は、他者に同意を求めているのです。そのとき別の誰かが、「わたしたちはもっと顧客ニーズに対して柔軟であるべきだ」と主張したなら、そこに価値観の対立が顕在化します。

 会議の場で、このような「そもそも論」の議論が起こり、収拾がつかなくなった経験を持っている読者も少なくないでしょう。なぜ、収拾がつかなくなるのかというと、それは「議論」をするからです。議論とは、自分の主張の正当性を相手に納得させることを目的とするコミュニケーションです。価値観に優劣はないため、議論を続ければ続けるほど、対立はエスカレートしてしまうのです。

 先にも述べたように、「高品質」と「柔軟さ」は両立しうるものです。調和を可能にするためには、「これは自分の価値観」「それは相手の価値観」と分別して考えるのではなく、「そこに2つの異なる価値観があるだけ」と思えることが必要です。そうすれば、調和の可能性が見えてくるのです。

 わたしたちはついつい自己中心で物事を考えがちですが、その姿勢はアイデアの可能性を狭めてしまいます。いかに自分も他者も客観視できるかが、豊かな発想を引き出すためにはたいへん重要なのです。

著者プロフィール:松丘啓司(まつおかけいじ)

エム・アイ・アソシエイツ株式会社代表取締役

東京大学法学部卒業後、アクセンチュア入社。同社のヒューマンパフォーマンスサービスライン統括パートナーを経て、2003年に独立し、エム・アイ・アソシエイツ株式会社を設立。同社では、人と組織の内発的変革を支援する研修、診断、コンサルティングサービスを提供している。主な著書に、「アイデアが湧きだすコミュニケーション」「論理思考は万能ではない」「組織営業力」などがある。


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