夏に爽やかなスパークリングワインの熱い戦い――市場規模が過去最高に松浦尚子のワイン&コミュニケーション

夏は、はじける泡が口の中をリフレッシュさせ、涼やかにしてくれる絶好のスパークリングワインシーズン。その市場動向とは。

» 2012年08月03日 11時16分 公開
[松浦尚子(サンク・センス),ITmedia]

 昨年、日本におけるスパークリングワインの輸入実績が、過去最高になる2万4805キロリットル(750ミリリットルボトル換算でおよそ3300万本)という数量を記録しました。10年前と比較すると、およそ2倍近い186%増に達し、輸入ワイン全体に占めるスパークリングワインの割合も12%になっています。

 夏は、はじける泡が口の中をリフレッシュさせ、涼やかにしてくれる絶好のスパークリングワインシーズン。皆さんはどんなときにスパークリングワインを飲みますか? お酒好きの男性からは、ほのかな甘みを感じるスパークリングワインはとりわけ積極的には飲まないという声も聞かれます。では誰が飲むことで消費が増えているのでしょうか?

 近年、アラサー、アラフォー(30、40代)の女性を中心に、ちょっとした良いことがあった日や、人が集まるうち飲みや女子会などで気軽に飲まれるようになってきていることが挙げられます。また、手頃な価格のものが増え、買いやすくなったことが消費を押し上げているようです。今後も国内の需要は上がると見られています。

 国別の輸入実績(2010年度)を見てみると、1位フランス(39.5%)、2位スペイン(22.6%)、3位イタリア(18.6%)と続きます。10年前と比較して台頭してきたのが、5位オーストラリア(4.5%)や6位チリで、特にチリは、2002年の輸入数量はゼロでしたが、10年の間に増え2012年は3.2%を占めるようになり、今後も伸びが見込まれます。ワイン新興国であるオーストラリアやチリでは、ラベルの英語表記など分かりやすいワインが多く、コストパフォーマンスの良さからも日本市場で広く受け入れられるようになりました。

 一方、金額ベースでは面白いことが分かります。数量実績で39.5%を占める1位のフランスが、金額では75.3%という圧倒的なシェアを誇っている点です。国内のワイン市場全体では、顕著な低価格化の傾向にあり、手頃なスパークリングワインが売れている中で、フランスが揺るぎない地位とシェアを保持できる理由、その秘密が、シャンパンにあります。シャンパンは、平均単価が圧倒的に高く、一部のものを除き希望小売価格では5000円を上回るものが多くなっています。それでもシャンパンが売れ続ける理由はどこにあるのでしょうか?

 そもそも、シャンパンは、正式名称を仏語でシャンパーニュと呼び(英語圏ではシャンペインと呼ばれる)フランス北東部に位置するシャンパーニュ地方でのみ造ることのできる発泡ワインです。フランスであっても、その他の地方で造るワインはこの名前を名乗ることはできません。

 シャンパーニュ地方で特別なワインができる理由は、第1にこの地方がブドウ栽培の北限に近く、冷涼な厳しい気候条件であること。このことで、発泡ワインの味わいに重要な役割を持つ上質な酸が得られます。第2に、ブドウ畑は低土層に堆積した厚い白亜質の地層の上にあります。この白亜質が湿気を吸収して貯め込み、水分を安定供給したり、太陽の熱を蓄積してブドウの樹に与えます。さらにブドウに必要なミネラル分も供給します。

 独特の気候、土壌条件のもと、人々の長く弛まない努力と知恵、工夫によって生まれたのがシャンパンです。現代でも、シャンパンの味わいを決めるブドウ栽培や醸造工程には厳しい規制がかけられ、高い品質が保たれています。泡をもたせる手法は「瓶内2次発酵法」で、一本一本のボトルに白ワインと酵母、ショ糖を詰めて、2度目のアルコール発酵を促し、その際に発生した炭酸ガス(CO2)を瓶内に閉じ込めます。その後、長い歳月を掛けて静かに熟成を遂げるなかで泡がワインに溶け込み、キメ細やかで持続性のある泡立ちが生まれるのです。

 日本のみならず世界のスパークリングワイン市場で圧倒的な地位を誇る、王者シャンパン。それに負けじと切磋琢磨しながら品質を高める世界各国のスパークリングワイン。今後もスパークリングワイン市場の動向に注目していきたいと思います。

著者プロフィール

松浦尚子

(有)サンク・センス 代表取締役社長

ボルドー国立大公認ワインテイスター

神戸大学教育学部卒。教育・出版会社ベネッセコーポレーションに勤めた後、フランスに渡り、世界の権威であるボルドー大学ワイン醸造学部が主宰する、日本人では数少ないワインテイスター専門家資格を取得。広島県の第3セクターのワイナリー設立にかかわり、米国・ボストンを本拠地とする投資会社に籍を置いて、日仏間で働く。通算5年間フランスに滞在した後、2002年秋に帰国。滞在中には、難関フランス文部省認定のフランス語資格試験DALFも全て取得する。帰国後、2003年4月に有限会社サンク・センスを設立し、代表取締役に就任。「フランス、ワイン、食」をテーマに、さまざまな切り口からこれまでにない発想でワインセミナー、イベントを中心にプロデュースを行う。2005年1月に立ち上げたサンク・センスワインCLUBには、ワインを軸に旅やグルメ、趣味など幅広い分野に関心を持つメンバーが集い、これまでにない質の高いコミュニティを形成している。また、フランス大使館主催事でのプレゼンターや六本木ヒルズクラブでのワイン講師、経営者を中心としたビジネスマン向けのワイン講演も数多くこなし、実績は多数。これまでに取り上げられた新聞、雑誌、ラジオ出演は数え切れない。富裕層向け雑誌や、大手都市銀行が運営するビジネス情報サイトなどでコラム連載も手掛け、多彩に活躍している。


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