そもそも赤ワインに、熟成はなぜ必要?松浦尚子のワイン&コミュニケーション

夏は敬遠されがちな赤ワインだが、肉料理と一緒に食欲増進に役立つ熟成した赤ワインを試してほしい。

» 2012年07月25日 08時00分 公開
[松浦尚子(サンク・センス),ITmedia]

 この時期、蒸し暑い日が続くと、さっぱりしたものばかり食べてしまいます。しかし、冷たいものを口にしていると、胃腸が冷えて消化吸収の能力が落ちてしまい、腹痛や下痢などの胃腸障害が起きるなど身体に不調をきたしてしまいます。何事もバランスなのでしょうが、時にはガッツリした肉料理など、力が出る濃厚な食べ物も必要なのかもしれません。

 同様にしっかりした赤ワインも敬遠されがちですが、熟成によって少しこなれて落ち着きのある赤ワインであれば、このシーズンでも食欲増進に役立ち、美味しく飲めるのではないかと思います。そこで、今回は、赤ワインの熟成について取り上げてみたいと思います。

 一度は訪ねてみたい本場、フランスのワイン産地。ワイナリーに足を運び、整然と並ぶ数え切れないほどの木樽を見て圧倒された経験を持つ方もいるでしょう。このように樽にワインを入れて熟成する場所のことを、ボルドー地方を含む南西フランス一帯ではシェ(Chai)と呼び、北東部のシャンパーニュやブルゴーニュ、北西部のロワール地方ではカーヴ(Cave)と呼びます。

 土地柄に応じて、地上の建物の中に貯蔵し、熟成させるところもあれば、地下に掘った地下倉でひんやりとした天然クーラーの恩恵に浴しているところもあります。理想とされる温度は、12〜15度程度、湿度が適度にあって、温度差が少なく、コンスタント(一定)であることが重要です。

 ボルドーではワイナリーのことをシャトーと呼びますが、実際に、シャトーの中でワインを造っているわけではありません。通常はシンボルともなるシャトーの脇に、(1)ワイン醸造所、(2)ワイン熟成所、(3)ワイン瓶のストックルーム、(4)瓶詰め機械と作業所といった、建物があります。ただし、高額な瓶詰め機械は、小規模な醸造所にはありません。

 熟成に使われる木樽は、気密が完全に保たれるステンレスタンクなどの容器と比較して、わずかですが透過性があり、さらに樽の成分が少しずつワインに抽出される特徴を持ちます。造りたいワインのタイプ、生産者の考え方、樽熟成を行う意味のあるワインかどうか、そして費用面との兼ね合いなどから、樽を使うか、タンクで熟成させるかを決定します。

 樽は南フランスではBarriques(バリック:228L)と呼ばれ、その他の地域ではFuts(フュ:225L)と呼ばれます。一樽からはおよそ300本(750ml)のワインができます。通常フランス産のオーク樽は高値で取引され、フランスの中でもどこの産地、森で育ったオーク材か、樽メーカーといったブランドによってさらに違いがあります。また、内側の焼き加減などもリクエストに応じて調整でき、ワインの味わいに影響します。

 熟成は、瓶詰めされた後も続いていきます。樽、ボトルを通じて赤ワインの中で起きている熟成による化学変化には以下のようなものがあります。

 (1)酸の減少: 酸の一部はアルコールと結合したり、沈殿することで弱まります

 (2)香りの変化: フレッシュな香りから、ブーケと呼ばれるより複雑な香りになっていきます

 (3)色の変化: 若々しい紫色から、次第にオレンジがかった方向に近づいていきます

 (4)収斂性や苦味が弱まる: この感覚のもとになるタンニンが、重合化したり、沈殿してオリになることで次第に弱まっていきます 

 (5)清澄化: ワインの中にある微細な混濁物が重力によって自然に底にたまり、オリとなります

 熟成という時間の贈り物により、われわれはより深みが増して、バランスの優れた赤ワインを楽しむことができるのです。

著者プロフィール

松浦尚子

(有)サンク・センス 代表取締役社長

ボルドー国立大公認ワインテイスター

神戸大学教育学部卒。教育・出版会社ベネッセコーポレーションに勤めた後、フランスに渡り、世界の権威であるボルドー大学ワイン醸造学部が主宰する、日本人では数少ないワインテイスター専門家資格を取得。広島県の第3セクターのワイナリー設立にかかわり、米国・ボストンを本拠地とする投資会社に籍を置いて、日仏間で働く。通算5年間フランスに滞在した後、2002年秋に帰国。滞在中には、難関フランス文部省認定のフランス語資格試験DALFも全て取得する。帰国後、2003年4月に有限会社サンク・センスを設立し、代表取締役に就任。「フランス、ワイン、食」をテーマに、さまざまな切り口からこれまでにない発想でワインセミナー、イベントを中心にプロデュースを行う。2005年1月に立ち上げたサンク・センスワインCLUBには、ワインを軸に旅やグルメ、趣味など幅広い分野に関心を持つメンバーが集い、これまでにない質の高いコミュニティを形成している。また、フランス大使館主催事でのプレゼンターや六本木ヒルズクラブでのワイン講師、経営者を中心としたビジネスマン向けのワイン講演も数多くこなし、実績は多数。これまでに取り上げられた新聞、雑誌、ラジオ出演は数え切れない。富裕層向け雑誌や、大手都市銀行が運営するビジネス情報サイトなどでコラム連載も手掛け、多彩に活躍している。


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