IT部門にできるのは、データセンターの消費電力削減だけではない。
「環境対策の強化を図るには、地域で最も環境負荷の少ない工場から、最も環境性能の優れた製品を提供する必要がある。工場や製品の環境負荷についてITで情報共有を図れれば、それも解決できるようになる」と、新井氏は言う。
ITによって情報共有が進めば、業務の効率が向上するだけでなく、環境に与える負荷も減らすことが可能になるというわけだ。
生産施設の面では現在、“人に優しい、高品質で高効率な生産・物流システムを駆使した、資源・エネルギー循環型ファクトリー”をコンセプトにした2つの工場の建設を進めており、そこで得られた工場建設ノウハウをグローバルに横展開し、環境対策を強化しようともしている。
また新井氏は、ITを駆使したサービスを実現すればさらに環境負荷を軽減できる余地があると言う。
例えば、ホンダではドライバーに対する情報提供サービス「インターナビ・プレミアムクラブ」を提供している。このサービスを通じてより多くのドライバーが走行情報を共有できれば、渋滞の回避できるようになり、結果としてCO2の排出削減を図れるかもしれない。
また、ICカードなどの厳重なセキュリティ管理ツールによって、カーシェアリングを実現できれば、自動車の台数削減などを通じ環境負荷を低減することも可能だ。同社では2002年3月から同様のサービスをシンガポールで開始している。
ホンダが最初に環境対策に着手したのは1960年代のこと――当時、達成不可能と言われていた米国の排ガス規制「マスキー法」(Muskie Act)への対応がきっかけだ。当時、創業者の故本田宗一郎氏は、マスキー法を同社の技術力を世界中に周知するチャンスととらえ、エンジニアに対して早急な対応を指示。だが、エンジニアは本田氏に対して、次のような意外な反論を寄せたのだという。
「このままでは排ガスによる負の遺産を将来に残してしまう。だからこそ、排ガスの削減に取り組んでいる。単に技術力を顕示したいわけではない、と」(新井氏)
今でも同社で引き継がれている「子供たちに青空を」とのメッセージは、この1960年代に生まれたものだ。この想い実現する上で、IT部門の果たす役割はままます大きくなりそうだ。
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明治学院大学 経済学部准教授