個人や組織の能力というのは、1日で変わるものではない。地道な努力を積み重ねてこそ変わっていくものだ――早稲田大学大学院教授でローランド・ベルガー会長の遠藤功氏は、「第4回エグゼクティブセミナー」で、「『見える化』による組織の“くせ”づくり」と題した基調講演を行った。
「最近の企業では、いろいろな問題が起きている。これまで当たり前だったことが当たり前にできなくなっている。イノベーションにつながる知恵やアイデアが現場から出てこない。製造も営業も、現場は必死で頑張っているのに、企業としての成果が上がらないのは、現場力が劣化しているから。現場力の劣化は現場だけのせいではない。生き残るために仕方なかったとはいえ、企業はリストラやアウトソーシングなど、現場を削る取り組みを進めてきた。そのツケが回ってきているのだ」と語るのは、3月18日に行われた経営者向けイベント「第4回エグゼクティブセミナー」で登壇したローランド・ベルガーの遠藤功会長。
同氏が、著書『現場力を鍛える』(東洋経済新報社)を出版してから4年。「現場力」という言葉も、経営のキーワードとして定着してきた。日本企業が、自らの競争力の根源は「現場力」にあること、例えば現場の知恵や創意工夫が企業の優位性をもたらし、イノベーションの端緒もまた現場にある、といったことを再認識しつつある。
「現場力」という言葉が広まる中では、真に現場力向上に結びつくとは思えないような例も出てきており、現場力を鍛えることに対し、誤解しているケースも少なくないと言えるだろう。どこに問題があるのか。遠藤氏は、2つのポイントを挙げた。
「まず第一に、組織能力を高めるという意識、自覚が希薄である。現場力を高めていくためには、経営と現場が一体となった持続的な取り組みが不可欠であり、そうしてこそ組織能力すなわちCapabilityによる差別化を行っていくことができる。『当社は現場力で差別化をするのだ』というくらいに本腰を入れて、永続的に取り組まねばならないと思う。そして第二に、自分たちが磨くべき組織能力が何なのか、具体的に明示されていない。自社が磨くべき能力を絞り込むことが重要だ。組織能力を経営テーマとして、きちんとデザインし、明確にして、絞り込んで、その上で徹底して身に付けていくことが欠かせない」
一方で、具体性のある現場力強化の活動も行われている。日新製鋼では、表面的な事象を追いかけるだけでは現場力の「上滑り」になるという危惧を抱き、現場力の再強化に取り組んでいるという。
「今までやってきたような顧客のニーズを先取りしていく取り組みができていないのではないかと考え、もう一歩突っ込んだお客様との対話が不可欠とし、“観える化”活動を経営の軸足に置いた。表面的に“見る”のではなく、見えないところまで“観る”というのだ」(遠藤氏)
現場力の強い企業というのは、どのような取り組みをしているものなのか。「強い現場では、“しつけ”の徹底と、良い“くせ”づくりが愚直に行われている」と遠藤氏は説明する。
組織の“しつけ”というのは、基本的にできて当たり前のことを示している。「例えば5Sや報・連・相、あるいは安全のための習慣や、挨拶の励行など、当たり前のことさえ、最近ではおろそかにされていて、徹底されていない現場も少なくない。まずは、そういったオペレーションの基礎を、しっかり“しつけ”として身に付けなくてはならない」(遠藤氏)
その“しつけ”を徹底した上で、優位性をもたらす“くせ”をつけていくというのである。
「運動となると一過性のものだが、“くせ”というのは組織能力であり、オペレーション上の優位性に直結するものだ。自覚しているか否かは別として、どのような組織にも“くせ”はある。それを、愚直に身に付けて伸ばしていくことが重要だ。例えば改善。トヨタではカイゼンという組織能力があり、現場での日常の思考の中にカイゼンの考え方が組み込まれ、当たり前のものとして行われるようになっているが、この“くせ”を身に付けるのに40年かかった」(遠藤氏)
また、アイデアを“くせ”とした小林製薬や、スピードを身に付けることに成功した大手金属メーカーX社などの例を挙げ、“くせ”を定着させ、維持・向上させていくことの難しさを示した(詳細は前回記事参照)。
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明治学院大学 経済学部准教授