社内開発か製品購入かの議論はもう忘れよう。システム開発を戦略的に推進するCIOたちは、自社のビジネスに最適なソフトウェアを構築することが可能なマッシュアップ・アプローチへ進んでいる。
マッシュアップとはすでに存在するアプリケーションを組み合わせて機能を拡張、増幅させること。すでに米国の企業はさまざまな方法で独自のソフトウェアを構築している。単なる市販製品の導入やオリジナルのソフトウェア構築の二者択一を超えた新しいアプリケーション構築手法──その実例とメリット、そして問題点を探ってみよう。
今日のミッドマーケット環境においては、アプリケーション開発が巨大なプライオリティを持つ。事実、CIO Decisions誌が400人の読者を対象に行った調査によると、アプリケーション開発は2007年の戦略ITプライオリティのトップにランクされた。調査では、全体の3分の1がアプリケーションを社内で独自開発していると回答。そのほかの3分の1は社内スタッフと請負業者が、また残りの3分の1はスタッフ、請負業者、パートナーが開発していると回答した。
とはいえ、ソフトウェアをまったく購入していないわけではない。日常業務の標準アプリケーション(Officeなど)やさまざまなERPソフトなどは、多くの場合、市販製品を購入している。今日のIT部門では、購入か、それとも社内開発か、といった二者択一の選択はない。いまはトヨタ「プリウス」のようなハイブリッドモデルが一般的だ。多くのCIO(最高情報責任者)は、ビジネス問題を解決できるソフトウェアがあれば躊躇(ちゅうちょ)せず購入しているが、最近は購入した製品を修正するような方法は取らず、その製品の補助的なプログラムを開発して、問題解決を図る傾向にある。Web 2.0の世界では、こうしたハイブリッド戦略を“マッシュアップ”と呼ぶ。既存のWebアプリケーション、あるいはデータソースを利用し、それらを組み合わせて新しいアプリケーションを構築する手法だ。マサチューセッツ州ケンブリッジの市場調査会社、フォレスター・リサーチの上級アナリスト、ジェフリー・ハモンド氏によると、このアプローチは、すでに存在するアプリケーションを組み合わせて、それらの機能性を拡張、増幅させるものだという。
「結局、アプリケーション開発のアプローチに、どれが正解と断言できるものはない。社内開発か、市販製品か? そのアプリケーションが必要なら、どちらであっても構わないからだ」と同氏。
ただ、そうした意見は必ずしも常に正しかったわけではない。従来、社内開発と製品購入に関する考え方は、必要な専門技能を持つ開発者が見つからなければパッケージを購入し、市販の製品でビジネス問題が解決できなければ社内開発するというものだった。この二分法には、当然、長所もあれば短所もあった。
「製品購入」戦略における問題は明白だ。価格である。オラクルやIBMなどのベンダーが提供する製品は非常に高価で、一般の中堅企業が実装し、ライセンス料を支払っていくのは容易でなかった。とはいえ、小さなベンダーでは、倒産したり買収されたりして、製品のメンテナンスやアップグレードパスが危うくなる可能性があった。
一方、「社内開発」戦略における問題は少し難解だ。端的に言えば、見込み違いが多いことである。1990年代のスタンディッシュ・グループの統計によると、ソフトウェア開発プロジェクトのおよそ80%は、中断、延期、予算オーバー、目標未達などの問題を抱えていた。そうした状況は、現在も変わらない。今回の調査でも、アプリケーション開発にあたって開発者が気にかける上位3つの事柄は、正確な要求仕様を得ること、当初の予算および期日でプロジェクトを完成させること、そしてユーザーからの高い評価を得ることだった。
マイアミのコンサルタント会社、RSRリサーチのマネージングパートナー、ブライアン・キルコース氏も、ソフトウェアの社内開発はITの“ワイルドチャイルド(粗暴な子供)”だと指摘する。
「社内開発が動き出すと、当初の見込みを超えてプロジェクトが突然、あらゆるものを飲み込んで雪だるま式に膨張し始める。そうしたプロジェクトは完成できただろうか? いつかは完成したかもしれない。しかし、いずれにしても、何かを一から構築しようとするときは、さまざまなリスクを覚悟して臨まなければならなかった」と同氏は語る。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授