ニューヨークの“もう1つ”のメジャーリーグチームが、バックアッププロセス改善のファーストステージで、デデュプリケーション・アプライアンスを導入、膨大なデータの管理に成功した。そのノウハウとは?
伝説のメジャーリーグチーム、ニューヨーク・メッツは2007年、ワールドシリーズ優勝の最有力候補として、シーズン後半7ゲームのリードを保ち、プレーオフ進出確実と見られていた。同じころ球団のITグループは、ポストシーズンゲームを取材する大勢の記者をサポートするため、無線ネットワークの拡張を計画していた。しかし、残り17試合になったころからメッツは絶不調となり、その後12試合で負けを喫する大波乱に見舞われた。
ワールドシリーズへの期待とネットワーク強化の必要性は、その時点でなくなったが、ITグループがバックアップしなければならないデータは、その後も増え続けた。
「われわれのデータは試合に勝とうが負けようが、常に増加し続ける」と語るのは、メッツの親会社スターリング・エクイティーズの傘下で、不動産およびベンチャーキャピタル事業を担当するスターリング・アメリカン・プロパティの情報システムおよび技術担当上級役員、ジョセフ・ミローヌ氏だ。同社は2つのデータセンターを運営している。
1つはシェイスタジアムに、もう1つはそこから12マイル離れたニューヨーク州グレートネックの本社にある。
スポーツの魅力はさておき、メッツにとってデータ管理に関する最大の問題は、ミッドサイズの一般的な企業と同様、“バックアップ”の一言に尽きる。「データのバックアップはどんどん困難になっていく」とミローヌ氏。通常の企業データに加え、画像や映像などの膨大なデータを保存するため、メッツのITグループはテラバイトレベルのバックアップを必要としていた。
これまでのバックアップは、面倒で、失敗しやすい、労働集約型のプロセスだった。何度かバックアップに失敗したミローヌ氏は、新しいアプローチへ切り替える必要があると痛感した。そして春キャンプがフルスイングに入った07年3月、同氏はテープバックアップに代わる新しいディスク・ツー・ディスク(D2D)、またはディスク・ツー・テープ(D2T)製品の検討を始めた。そしてミローヌ氏は、低コストのディスク、仮想テープ、デデュプリケーションなどの新技術は、メッツのバックアップニーズだけでなく、スターリングの他の事業にも適用できると考えたのだ。
メッツのストレージ増大を加速しているのが、メディアに提供するための写真画像だ。「メッツはじつに多くの写真を撮っている。06年は7万7000枚の写真を撮った」とミローヌ氏。07年も(シーズン終了前のインタビュー時までに)、チームの写真担当者は8万3000枚のスナップショットを撮っていた。15Mピクセルの写真は、1枚25Mバイトから30Mバイトのファイルになる。
メッツは主にヒューレット・パッカード(HP)製のWindowsサーバを利用している。シェイスタジアムに18台、スターリング本社に23台のサーバが稼動し、ファイルサービスのほかに、Microsoft SQL Server、Microsoft Exchange、Microsoft Office SharePoint Serverなど、さまざまなアプリケーションを実行している。
ミローヌ氏がバックアップ問題を真剣に考え始めたころ、スターリングはシェイスタジアムに3.5Tバイト、本社に1Tバイトちょっとのストレージを持っていた。すべてDAS(Direct Attached Storage)で、8人のスタッフ(スタジアム5人、本社3人)が管理していた。ミローヌ氏はデータの急激な増加に対応するため、2008年中にさらに4人のスタッフを新規に雇用し、スタジアムと本社の双方のデータセンターにSANを実装する計画だ。
スターリングにはすでに2カ所のデータセンターと関連資産があり、それらの一部はリモートのバックアップサイトとして最適であったことから、ミローヌ氏は、まずバックアッププロセスを迅速化し、次にテープ利用を減らし、最終的に災害復旧問題まで解決する多段階のストレージ増強計画を立案した。「それにより、スターリング全体の事業継続性と災害復旧に対応できると考えた」とミローヌ氏は語る。問題は、適切な価格水準で最適な技術の組み合わせを見つけ出すことだった。
メッツはバックアップにシマンテックのBackup Execを利用している。各サーバは2枚のネットワークカードを装着し、2枚目のカードはカンタムのDLTテープドライブを接続したバックアップサーバにダイレクトにリンクする。しかし、多いときはバックアップあたり8本になるテープのハンドリングが、ITスタッフの負担になっていた。バックアッププロセスには夜間の増分バックアップとウィークリーのフルバックアップが含まれ、テープの入れ違いなどでバックアップが失敗することもしばしばだった。
ミローヌ氏の計画は、WANレプリケーションと連動するD2D自動バックアップを実現することだ。それにより、それぞれのデータセンターは相互にバックアップを複製することが可能になり、最終的にはテープによるバックアップを完全になくすことができる。ミローヌ氏の究極の目標は、広範な事業継続性/災害復旧計画の一部としてデイリーおよびウイークリーのバックアップを位置づけることだが、初期の段階ではバックアップの自動化に注力した。経営陣は多段階計画の最初の予算およそ20万ドルの支出を承認した。
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明治学院大学 経済学部准教授