競争力を高めるベストプラクティスを探せWeb革新を経営に取り込む(1/4 ページ)

いまださまざまな解釈と評価に分かれるWeb2.0。しかし、すでに経営のあらゆるシーンで、その成果が上がりつつある。顧客と経営をより密接につなぎ、収益性もアップ──。そんな実例をレポートする。

» 2008年08月13日 08時00分 公開
[Michael Ybarra,ITmedia]

 インディアナ州在住のジュリア・フロスト・イェークさんは、彼女の妹が亡くなった後、家族の思い出の品を整理していたとき、1936年に撮影された1枚の古い写真を見つけた。それは自宅のメールボックスの横で種苗会社バーピーのメールオーダーカタログを広げる2人の少女を写したものだった。父親と同じようにガーデニングを趣味にしていたイェークさんは、その白黒写真と、カタログの最新号を広げてメールボックスの横に立つ1999年の自分のスナップショットを創立100年を迎える老舗企業に送った。写真に添えた手紙には、「あれから63年、わたしはいまもバーピーの種を愛用しています」と書いた。

 ペンシルバニア州ワーミンスターのW.アトレー・バーピーには毎年数千通の手紙が届くが、イェークさんの手紙は社員の間でも評判になった。イェーク姉妹の写真と手紙は、同社がWeb戦略の一環として導入したブログとRSSフィードで、顧客エクスペリエンスの1つとして紹介された。姉妹の画像と物語は他の顧客のロイヤルティーを高め、ファミリーガーデニングの伝統を共有するのに役立っている。

 「われわれの顧客は常にわれわれとともにあった」と語るのは、バーピーのマーケティングと電子コマースを担当する社歴20年のベテラン、ドン・ザイドラー氏だ。「通常のやり取りだけで、顧客層を効果的、効率的に拡大することは難しい」

過去と現在:W.アトレー・バーピーは、60年にわたって同社の種を愛用してきたジュリア・フロスト・イェークの昔と今の写真、そして感謝の手紙をWebサイトに掲載した 過去と現在:W.アトレー・バーピーは、60年にわたって同社の種を愛用してきたジュリア・フロスト・イェークの昔と今の写真、そして感謝の手紙をWebサイトに掲載した

 バーピーと同じように競争の激しい業界で生き残りをかける企業の多くは、オンライン・エクスペリエンスのあり方を再定義するインタラクティブなWeb2.0ツールのおかげで、顧客とコンタクトを図るための新しい方法を見出しつつある。製品開発や販売戦略がWebの特性や機能への依存度を高めつつある中、ブログ、ウィキ、ポッドキャスト、そしてマッシュアップなどもまた、CIO(最高情報責任者)が社外の顧客や社内のエグゼクティブに近づく手段としてきわめて有効だ(マッシュアップは、複数のソースのエレメントを統合したWebページやアプリケーションのこと)。

 フォレスター・リサーチの最近の調査によると、調査対象となったCIO 119人の89%が、何らかのWeb2.0技術を利用していた。Web2.0の定義はいまだ人によって異なるが、CIOの多くは、軽薄なうたい文句に惑わされることなく、特定の技術やツールに焦点を絞るべきだと考えている。

 「わたしはCIOとして、この技術戦略を推進する。Web2.0とSOA(サービス指向アーキテクチャ)は、われわれのアーキテクチャのキーコンポーネントだ」と語るのは、ロサンゼルスに本拠を置くシティ・ナショナル銀行の上級副頭取兼CIO、ジョン・ビール氏だ。同行では、顧客向けのポッドキャストとRSSフィードが大きな成功をもたらした。「第1の目的は、行内の関係部局や顧客とのコラボレーション、情報共有の強化だ。Web2.0とSOAを利用することで、その目的を達成できると確信している」

 Web2.0について語るとき、多くの人々はポピュラーなSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サイト)やウィキペディアを思い浮かべるだろう。しかし、実は伝統的な収益モデルを持つ健全なミッドマーケット企業群も、この新しいWeb技術を既存のインフラに着々と取り込みつつある。各社のプロジェクトは、Web2.0のカテゴリーにぴったりと収まる場合もあれば、双方向性やユーザー主導、単純な操作性といったWeb2.0に共通する特性をシンプルに導入しただけの場合もある。だが重要な点は、いずれの企業もWeb技術を利用し、人々がお金を払って顧客になる以前から、自社のビジネスシステムにユーザーを招き入れていることだ。

 ただ、これらのインタラクティブなツールはプライバシーやセキュリティの問題が絡むため、Web2.0の世界へ足を踏み入れるCIOは、そのあたりに十分留意しなければならない。ガートナーのアナリスト、ステッサ・コーヘン氏は、まずブログやウィキといったシンプルなツールの社内利用から始めることも1つの方法だと話す。フォーラムを立ち上げれば、スタッフ同士でアイデアを共有したり、非公式にコミュニケーションを図ることができ、縦割り組織の弊害を打破して、コラボレーションやイノベーションを促進することが可能になるだろう。またスタッフは、いずれ顧客が利用することになるツールを実地に体験することもできる。

 「理論的に考えるだけでなく、自らの手でどのように使えるか、社内で実際に試行錯誤できる」とコーヘン氏は語る。

 ここでは、小売、製造、銀行、転職情報サービスの各分野で、革新的なWeb技術を導入して業界をリードし、それまで想像すらできなかった方法で顧客の信頼を勝ち得たミッドマーケットITリーダー4人の成功事例を紹介する。

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