精神科医の和田秀樹氏によると、格差社会の根底にあるのは「意欲」の違いだという。とりわけ日本人の意欲は海外諸国と比べて低く、このままでは日本が没落しかねないと懸念する。
「意欲格差」の問題に正面から取り組んだ本が、精神科医・和田秀樹氏の深い危機感から生み出された。「意欲」のある、なしという、人間心理の中に内在する因子が、いかに個人、集団そして国家間において、恐ろしい結果の違いをもたらすかを、和田氏が気付いたことによる。
現在の日本人の間には、あらゆる点で「意欲の減退」症状が起きはじめている。
ここ数年、マスコミでは、日本が「格差社会」になった現実が取り上げられてきた。しかし、格差の現実が語られても「では、なぜ格差社会になったのか」の背景説明はなされていなかった。
和田氏はその根本原因が「意欲の格差」にあるという。専門領域である精神医学をベースに置き、「意欲」がいかに人間とその集団の思考過程、行動過程に影響を及ぼすかを述べている。
「意欲」は、北京オリンピックでの、日本人と他国の代表選手の結果を比較しても判るように、結果には大きなその差が働いている。スポーツの世界だけではない。経済や企業、教育・学術、外交など、あらゆる領域において、各国のそれに比して日本は遅れをとり始めている。その背景には、総じて日本人の間に「意欲の減退」症状が認められる――こう和田氏は分析する。
本書は全体が7章からなる。「第1章 意欲格差の恐怖」では、「日本の意欲減退」の歴史的過程と現実を多くの実例を通して活写し、この現実が近未来に日本を三等国に転落させるであろうと見通している。「第2章 意欲の実態を追跡する」では、ことに働く社会人の間に広がる経済格差をクローズアップし、この経済構造の背景に潜む「意欲格差」の実態を示す。
「第3章 親の立場が意欲格差を生み出した」では、親、ことに団塊の世代の親たちの間に形成された「負」の心情が、いかにその家族たちの「意欲減退」に影響を与えたかが心理学的に分析され、その心情が「層」として、意欲の低い世代を生み出しているかを示しており、団塊の世代論にこれまでなかった視点を提供している。
「第4章 地方から意欲・国力が衰えていく」は、地方疲弊の姿はむしろ、地方自身が生み出したものだと分析する。地方の意欲減退は、地方人自身の内側から芽生え形成されたのだと解き明かす。地方人の自覚が問われている。その延長で「第5章 意欲格差は人々に何をもたらすのか」では、国内疲弊の恐ろしい将来を予測する。
「第6章 意欲を奪う政策・論調はやめよう」で驚くのは、“第四の権力”=マスメディアの「罪」を問うていることである。和田氏はこの章で、マスメディアが、いかに無自覚のままに、日本人の「意欲減退化」に加担してきたかを、説得性をもって語る。同時に、政府政策の欠陥が国民の「意欲減退化」に大きく作用しているかを説いている。
終章「第7章 意欲を向上するため、個々人が今、なすべきこと」で、当面個々人は、環境に頼らず自らの力で「意欲開拓」に向けて行動せざるを得ず、としてその方法の一端を示し終える。日本の将来展望への無力感の中に、一条の明かりを見る読後感である。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授