低迷する日本企業、脱出の鍵は「構想力」と「技術力」Gartner Symposium ITxpo 2008レポート

日経平均株価がついにバブル崩壊後の最安値(7607円)を下回るなど、日本経済の悪化は歯止めがきかない状況になっている。日本がこの閉塞感を打破する秘策はあるのか。

» 2008年10月28日 09時49分 公開
[伏見学,ITmedia]

 IT調査会社のガートナー ジャパンは10月27日、CIO(最高情報責任者)をはじめ企業のIT担当者に向けたセミナーイベント「Gartner Symposium ITxpo 2008」を開催した(イベントは29日まで)。基調講演に登壇したガートナー リサーチのバイス プレジデント兼最上級アナリストである亦賀忠明氏は、経済危機や資源不足、気候変動など世界が大きな課題に直面する今こそ変革を起こすべきであり、中でも日本企業は構想力(アイデア)と技術力によって低迷する現状を抜け出すことが重要だと強調した。

「新たな競争の時代に突入する」と話すガートナーの亦賀忠明氏 「新たな競争の時代に突入する」と話すガートナーの亦賀忠明氏

 日本が抱える問題は深刻だ。株価の大幅下落による経済環境の悪化、少子高齢化による労働人口の減少、政局の不安定など枚挙にいとまがない。GDP(国内総生産)の成長率はここ数年横ばい傾向にあり、中国やインドといった新興国に抜かれるのは時間の問題という。IMF(国際通貨基金)の調査によると、1人当たりのGDPで日本は2013年に香港、イタリア、スペイン、ギリシャを下回ると予測されている。

 日本に未来はないのか。亦賀氏は、これまでにないアイデアと卓越した技術が鍵を握るという。「(2020年に完成予定の)高さ1000メートルに達するドバイの高層ビルがいい例だ。1キロメートルのビルを建てるという構想も見事だが、これは技術力(IT)なくして成し得ない」(亦賀氏)。この両輪が今後の日本企業に重要だと力を込める。

 では日本企業は何をすべきか。ITについては、現状の発想や仕組みを根本的に変える必要があるという。企業におけるITは、複雑性、コストの増大、変化に対応するスピードの遅さなどが問題になっている。亦賀氏は「俊敏なSpeed(スピード)、グローバルなScale(規模)、クラウドコンピューティングといった新たなService(サービス)、企業のSustainability(持続可能性)の“4S”をキーワードに、今後はITがビジネスをけん引するという意識を持たなくてはならない」と述べる。

 具体的には、クラウドコンピューティングが大きな変化をもたらすとしている。これまでのITはいわゆる「発電機モデル」であり、業務に対して1つずつ存在するものだった。ベンダーやシステムインテグレーターなど人の手を介すため、導入まで数ケ月から数年かかるほか、一度構築すればそれで終わりだった。「これからのITは大量のユーザーに対して1つだけ存在するという“発電所モデル”が主流になる。必要な機能が必要なときに自動的に提供されるため、わずか数分でユーザーはITを活用できるようになる」と亦賀氏は説明する。

 例えば、日本郵政(JP)は民営化に際して4Sを体現した。新システムにセールスフォース・ドットコムのオンデマンドCRM(顧客情報管理)アプリケーション「Salesforce」などを採用し、システム開発の期間を大幅に短縮した。同システムは約2万4000局、約4000人で利用されているという。

 「もはや業務のためにITを導入するという考え方は古い。今やITはビジネス競争の武器であり、(勝ち組と呼ばれる)グローバル企業は当然のように取り組んでいる。急激な変化に対応するにはITを前提にビジネスを設計すべきだ」(亦賀氏)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ITmedia エグゼクティブのご案内

「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上

アドバイザリーボード

根来龍之

早稲田大学商学学術院教授

根来龍之

小尾敏夫

早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授

小尾敏夫

郡山史郎

株式会社CEAFOM 代表取締役社長

郡山史郎

西野弘

株式会社プロシード 代表取締役

西野弘

森田正隆

明治学院大学 経済学部准教授

森田正隆