日本企業の多くはビジネス部門の意見を中心に企業戦略を立案するため、IT部門が戦略に介入する余地は少ないという。そうした現状にガートナーの加藤氏は警鐘を鳴らす。
IT調査会社のガートナー ジャパンは10月27日から3日間の日程で、CIO(最高情報責任者)をはじめ企業のIT担当者に向けたセミナーイベント「Gartner Symposium ITxpo 2008」を開催した。10月28日のセッションでは、ガートナー コンサルティングの加藤石根ディレクターがIT組織のあるべき姿について見解を示した。加藤氏は「IT投資には中長期的な見通しが不可欠だ。IT戦略よりも先に事業戦略を考えるのはおかしい」と強調した。経済環境の悪化により企業には一層の業務改善が求められる中、日本企業の戦略立案のプロセスに対して苦言を呈した。
米国発の金融危機は日本経済にも多大なダメージをもたらした。10月24日には円相場が13年ぶりに1ドル=90円台まで上昇し、同28日には日経平均株価が26年ぶりに一時7000円を割り込んだ。余波は日本企業にも襲いかかる。例えばソニーが発表した2008年4〜9月期連結決算によると、純利益は前年同期比60.2%減の557億円という大幅減益となった。円高の影響でエレクトロニクス分野が減収になったほか、株式相場の下落で金融事業が悪化したことが主な原因だ。
不況下において、生き残りをかけた企業競争がさらに激化するのは明白だ。競合の真似していても意味がなく、差別化を図るための“攻め”の戦略が必要だという。「(競争で抜きん出るためには)縮小均衡型のIT投資からの脱却は急務だ」と加藤氏は訴える。
IT投資に対する日本企業の意識の低さは以前から指摘されている。2007年にガートナーが実施した調査によると、日本はIT投資マインドで最下位という結果だった。投資の内訳にも問題があり、日本では約6〜7割が情報システムの保守・運用コストに消えていくという。加藤氏は「今後IT投資が急激に増えることはない。必要なのは投資配分の改善で、資産効率を高める方法を考えるべきだ」と話す。
1つの回答として加藤氏が示すのが、企業の戦略の見直しである。
「事業戦略は3年単位で立案するのが一般的だが、IT戦略は(システム切り替えのタイミングである)5年から10年先を見据えて考えなければならない。ITをベースに戦略を練るべきであって、事業戦略を優先するのはおかしい。(IT投資額が限られている以上は)もっとIT部門が企業戦略にかかわる必要がある」(加藤氏)
その先導役となるのは、ITとビジネス双方のスキルを持つ人材だ。その育成はCIOに期待されているが、「日々の業務に忙殺されており兼務は難しい」(加藤氏)ため、IT部門に専任の担当者を配置してビジネス戦略を考案できるような人材を育てていくべきだという。
あるいは、CIOの右腕になって人材育成をサポートする“飛車”や“角”のような存在が今後のIT組織には必要だとしている。
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明治学院大学 経済学部准教授