経営者が知っておくべき経営手法やアイデアを、明日に備えて今考えるべき5つの戦略から引き出す。
訳者の前書きにあるように、本書にはとりわけ最新のアイデアがあるわけでもなく、すぐに役立つハウツーが掲載されているわけでもない。むしろ、従来のサプライチェーンやプライシング、規模の経済といったMBAの基本といったツールを使っている。しかし、これらツールのとらえ方は従来のものではない。むしろ、経営幹部がこれらを従来通りにとらえていることによって、さまざまな問題が発生していると警鐘する。そこで、今すぐ真剣に考えるべき5つの戦略を提示する。
戦略1「サプライチェーン・マネジメントを鍛える」では、中国に生産工場を移転したことによって発生したサプライチェーン問題を、港が渋滞することに起因すると説明し、販売機会のロスが生じる危険性があることを示す。続く戦略2「脱・規模の経済」では、オンライン旅行代理店の米Orbitzを事例に、不安定で予測が難しい市場においては「ディスポーザブル・ファクトリー(使い捨ての工場)」が有効であると述べる。同様に、戦略3「ダイナミック・プライシング」では、大手自動車保険会社の米Progressiveが、実際の運転行為に基づいて保険料を設定するという経験集約型の手法を編み出したことを成功事例として挙げる。
戦略4「複雑性を進んで受け入れる」では、複雑性は管理コストの増大に大きく影響することから、多くの企業では値上げ、事業の規模拡大、あるいはこれら両方を実施し、複雑性の問題を解決するために、企業は製品・サービスを単純化したがると説明する。しかし、本書ではあえて複雑性をチャンスととらえて活用することを勧める。
戦略5「無限の帯域幅」では、実証されていない新技術に慎重になりがちな経営者たちに対して、「帯域幅革命による大きな変化の可能性を無視する危険をあえて冒している」と断じる。無限の帯域幅を活用することは、収益性の向上、持続的な成長、競争優位構築のポテンシャルは無視できないほど大きいことを解説する。
本書では、優れた経営幹部は、業界の枠を超えて成功している企業から新たな経営手法や競争の仕方を見つけ出し、そのアイデアを取り込んでいるものだという。彼らは、その過程で新たな世界で起こりつつある“かすかな兆候”を見つけているというのだ。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授