伊藤氏は、こうした新基準の適用による影響が大きく3つあると指摘する。まず、「グループ経営管理の仕組みが外部の目にさらされる」という点。新基準では、実際に経営上の意思決定に用いる資料を基礎とすることが求められているため、グループ経営管理の仕組みそのものがチェック対象となるのである。
伊藤氏は「旧基準において、セグメント情報を開示していなかった企業は、単に『開示に熱心でない』と受け取られていただけだろう。しかし、新基準では、実際の経営に用いている情報なので、セグメント情報開示の不足は『そういった情報を持っていないのか』と思われ、投資家からは厳しい目で見られるのではないだろうか」と指摘する。
次に、財務数値と管理数値の差違についての検討が必要になる。旧基準であれば財務数値が基になっているため、セグメント別の開示でも食い違いは生じない。しかし、管理数値は経営方針により算出方法はさまざま。財務数値と同一でない企業がほとんどだろう。
「経営管理上、この差異を社内でどのように考えていくべきかという検討も必要になるだろう。新基準の適用を機に、この差異を解消するような算出方法に切り替えていくのか、あるいは差異があって当然とするのならその差異についての開示を把握して、開示できるような体制を整えるか、いずれかの対応が必要」(伊藤氏)
一方、開示を行うだけの目的で情報を作成する必要はなくなる。新基準では企業が実際の管理に用いている会計を出すものなので、旧基準のように開示のためだけに作成するような作業は不要になるのだ。
以上のように、新会計基準の概要を説明した上で、伊藤氏はこう語った。
「会計基準の変更は、単に財務報告が変わるだけのことではない。財務報告という結果を生み出す経営そのものにも大きな影響を与える。例えば、グループ経営においては、管理会計上も子会社の会計処理を統一することが経営課題になってくるのではないだろうか。それぞれの子会社がグループ会計基準を満たしているかどうか、親会社が把握することも求められる可能性がある」
管理会計の中身を開示することを求めた新会計基準。これまで以上に、「見られても支障がない」ような経営が求められてくるということだろう。特に、グループ内の管理会計におけるデータの整合性確認、改善といった整備が欠かせない。例えば、会計報告スケジュールに合わせて管理会計のプロセスを財務会計のプロセスに合致させる必要も生じてくる。
「個人的には、かつて語られた財務会計と管理会計を統合する、いわゆる『財管一致』の議論が再燃するのではないか、という気もしている。しかし、財管一致とはいえ、今回の新会計基準によるものはそう単純な構図ではない。近年では、例えば財務会計にも見積もりなどの要素が入り込んできており、財務と管理が複雑な相互依存関係になっている」(伊藤氏)
今回の新会計基準は、単にセグメント会計の基準が変わっただけではない。経理部門だけが対応すれば済むようなものではなく、経営の問題であると伊藤氏は強調する。
「経理関係者には、この新会計基準適用に先立って、経営層をリードすることが求められている」(伊藤氏)
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授