「アンチIT」のすすめ――ITがいらない企業経営【新春特別企画】コミュニティーリーダーが占う、2009年大予測(2/2 ページ)

» 2009年01月09日 08時00分 公開
[伊嶋謙二(ノークリサーチ),ITmedia]
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2009年の明暗を分ける3つのポイント

 2009年の重要なメッセージは、IT関連でいえば逆説的に「アンチIT」の勧めが重要で、次の3点がポイントだ。


1. コアを知る

 コアビジネス、企業の強み、特徴、差別化でもいいが企業や分析でも何がコアコンピタンスで強みなのかを知る。企業はビジネスコアを把握し、どう展開するか?

2.単純化する

 企業の本質を見極めた上で目的を単純にして、実践する。ニーズの多様化や競合などの動きに合わせて軸がぶれて複雑化することで、本質が見えにくくなる。何をやっているか分からず、得るものは少ない。例えば主力製品をより高い価値で提供することがビジネスコアであるならば、より効果の高いプロモーションや販売戦略を行うことが必須だ。単純化した目的に対して多くの企業はうまくITを活用できているのであろうか?

3.継続する

 あるレベルを維持していく、そして継続することが重要。例えば顧客との関係性でも、継続性のある製品、サービスを供給することでその企業の製品や価値が認められる。ステータスを得られる。企業は、コアを継続するだけの「意志と体力」を持ち続けること。簡単ではないが、(1)(2)の実践を経て、継続するための最大限の努力を行う。資金や人的リソースに見合った方法は必ずあるはず。


 この3点に集中することがプライオリティである。そこにツールとしてのITが生きるはずだ。企業の信頼性、製品やサービスの差別化を図るためにITをうまく使えるかどうかは、販売店やベンダーによる啓蒙や提案だけでは十分ではなく、企業自身がコアビジネスを理解して、企業活動を継続しなくてはならない。

ITより重要な企業のレゾンデートル

 現状のITが企業経営になくてはならないほどプライムな状況は、実はまだ一部に過ぎない。ITで何とかなるという幻想は捨てるべきだ。ITを人並みに使うことは普通であり、利用するだけでは差別化にはならない。優れたコアを生かせるツールとしてITを使った企業がその恩恵に預かることができる。

 少ない経費で多くの効果を得られるという実利を優先させるならSaaSなどのツールを利用すればいい。業務アプリケーションをカスタムメイドで構築して、高い運用費用を掛けているシステムをパッケージソフトにダウングレードしても問題ないかもしれない。場合によってはパソコン1台、オフィスソフトで十分、あるいは電卓だけでもいいかもしれない。つまり、SaaSを利用することで、コアビジネスに関係ないIT部分の投資を極小化して、余裕が生まれたIT投資を企業コアをドライブさせる目的に活用すればいい。

 そもそも「はじめに企業経営にはITありき」で利用・活用を吹き込むベンダーやメディアの煽りを疑ってみるべきだろう。考えてみればクライアントサーバシステムからインターネットインフラ普及当時にシステムを売りつけたときには、ネットワークの管理、運用の重要性やセキュリティのことを明示していなかったはず。正確には「そんなことになるとは分からなかった」というのが本音だろう。それが今や「ITのセキュリティや運用管理こそが重要」という、自ら新たなビジネスを生成させている売り手側の思惑に唯々諾々と乗るべきではない。

 取引関係や自社の経済活動で起きつつある現象、つまり身近に見えていることこそが物事の本質であり、バズワードや売り手側の甘言に右往左往せずに、先の3点を経営の軸に置けば、自ずとすでに起きつつある変革、2009年にはさらに悪化が予想される経済環境にどう対応すべきかの道筋が見えてくるはずだ。特に中堅・中小企業にとってのITは、最後に選定し決定すべきツールとして考えるべきものである。


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