GEのジャック・ウェルチ元CEOをはじめ、世界の名だたる企業の経営者を指導してきたマーシャル・ゴールドスミス氏に、成功するコーチングの極意、優れたリーダーの条件を聞いた。
エグゼクティブコーチングの第一人者であるマーシャル・ゴールドスミス氏は、米General Electric(GE)のジャック・ウェルチ元CEO、米Ford Motorのアラン・ムラーリー社長など、世界的な企業のCEOを80人以上もコーチングしたことで知られる。
彼は著書『コーチングの神様が教える「できる人」の法則』(日本経済新聞出版社)の中で、エグゼクティブコーチングの仕事について「彼らをもっと賢くすることでも、もっと金持ちにすることでもない。例えば他人を認めないなど一緒に働く人たちが不快に思うその人の個人的な癖を探し出し取り除く手助けをすることだ」と述べている。つまり人々を劇的に変えようとするのではなく、ちょっとしたヒントを与えてあげることがコーチングの基本動作と言える。
コーチングを通じて多くのエグゼクティブに接するゴールドスミス氏にとって、優れた経営者とそうでない経営者の違いはどこにあるのか。「コーチングの神様」に話を聞いた。
――なぜコーチングの仕事に携わるようになったのですか。
ゴールドスミス エグゼクティブ教育の専門家だったポール・ハーシー博士との出会いが始まりでした。わたしは組織行動論の分野においてカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)でPh.D.(博士)を取得し、その後ある大学で教鞭を取っていたときに彼に従事し多くを学びました。28歳のある日、ハーシー博士がコーチングの仕事をダブルブッキングしてしまい、「マーシャル、きみはわたしの仕事をできるか?」と電話で助けを求めてきました。
自信はありませんでしたが、博士から「報酬として1日当たり1000ドル支払う」と言われたので、「任せてください」と即答しました(笑)。当時わたしの給料は1年間で1万5000ドルだったからです。
携わったのは、ある企業に向けた8週間のプログラムでした。対象となったのはトップマネジメント層の人たちで、わたしのような若輩者が出てきたことに憤慨しました。しかしいざ始めてみたら大成功に終わりました。あまりにもうまくいったので、後日その会社からハーシー博士に「もう一度マーシャルをわが社に派遣してください」と連絡がありました。博士の勧めもあり、それからコーチングの仕事にかかわるようになりました。
――コーチングのキャリアの中で転機となった出来事はありますか。
ゴールドスミス 数年前、一人の経営者をコーチングしていました。彼は今までコーチングしたほかの経営者と比べて、短期間で最大の成果を上げました。これはわたしにとって画期的な出来事でした。
その経営者に「コーチングという仕事を通じて、逆にわたしが学ぶべきことは何ですか」と尋ねると、彼は「コーチングは顧客が中心であることを常に念頭に置くべきです。従ってコーチングのビジネスに携わっていく上で、一番の課題となるのは顧客選びでしょう」と答えました。正しい顧客を選べば、コーチングのプロセスは必然的にうまくいき、ビジネスは常に成功するということです。
「5万人を率いるリーダーであるわたしの仕事も、マーシャルの仕事も差異はありません。適切な従業員を抱えていれば、わたしのビジネスは必然的に成功します。もしも従業員が不適切なメンバーであれば、成功はありません」とも彼は強調しました。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授