経営企画部の吉田部長の申し出により、今回から阿部と浅賀の2人が勉強会に加わることとなった。4人になったメンバーで組織が抱える課題に対する解決策を洗い出す作業が始まった。
内山悟志の「IT人材育成物語」 前回までのあらすじ
定例の勉強会が開かれる火曜日の夜6時、講師役の川口が会議室に入るとすでに4人は席に着いていた。今日から、経営企画部の阿部と浅賀が勉強会に参加することになっていた。最初から参加している情報システム部の宮下と奥山はリラックスした表情で談笑していたが、阿部と浅賀は緊張を隠せない様子だった。簡単な挨拶、新しい2人に対する勉強会の主旨の説明、4人の自己紹介を済ませると、阿部と浅賀の緊張も少しほぐれてきたようだった。
「今日は、前回までに宮下と奥山が検討した『なぜ、ITが十分に事業に貢献できていないのか』という課題に対する解決策について考えます」。川口は、前回の作業で課題をまとめた模造紙を壁に貼り付け、阿部と浅賀にこれまでの討議結果を説明するよう奥山に促した。奥山は、前回まとめた紙を指し示しながら、討議の経緯と結果として示された上位の課題について手際よく説明した。
続いて川口は今回使う手法を説明した。「今日は、ブレインライティングという手法を使うことにする。ブレインライティングも、カードBS法と同様に付箋紙を使ってアイデアを書き出していく手法だが、ブレインストーミングやカードBS法のように口頭での発表がないことから『沈黙のブレインストーミング』とも呼ばれているのだ」。
川口は、用意してあったA3のコピー用紙と付箋紙を配りながら説明を続けた。「まずは、このコピー用紙を縦にして、上の3枚の付箋紙を並べて貼り付けてほしい。ブレインライティング法は、テーマに沿ったアイデアをフォームに3つずつ書き出し、それを左隣に回していく。回ってきたフォームには右隣の人が書いたアイデアが3つ並んでいるはずだが、それをヒントとして発想した自分のアイデアをまた3つずつ書き出す。前の人が書いた内容を参考にするというのがブレインライティング法の特徴であり、前の人のアイデアを詳細化したり、それと関連したアイデアで発想を広げたりしていく点が興味深い。
アイデアの発展は、前の人の1つに対して1つでも構わないし、前の人の1つに対して2つでも3つでも良い。前の人の考えをヒントとしたアイデアがどうしても浮かばない場合は、まったく新しいアイデアを出しても構わない。注意点は、カードBS法と同様に1つの付箋紙には1つのアイデアだけを具体的に記述することだ」(図1)。
カードBS法を体得した奥山と宮下は要領がつかめてきたようで、川口の説明をうなずきながら聞いていた。「全員が3つのアイデアを書くのに5分かかるとすると、4人の場合はフォームが一回りするのに20分かかり、その時には3×4×4で48個のアイデアが上がっているということですね」と宮下が確認した。「そうだ、20分で48個のアイデアが生み出せるというのは、なかなか生産性が高いだろう」という川口の返答に、新メンバーの阿部と浅賀も感心したようにうなずいた。
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