信頼を勝ち得たいからといって、顧客の言うことを何でも素直に聞き入れてしまうのは考えもの。顧客の真の課題を見つけて解決してあげることが、本物の顧客志向なのです。
「ウチのボスは、とにかくお客さんからの信頼が絶大なんですよ。いつも受注はお客さんからの指名。あれだけお客さんのために一生懸命になれる人は少ないんじゃないでしょうか」。顧客から愛されるというのは、頼りになるリーダーの典型。相手との信頼関係があれば、プレゼンでも勝てる確率はグッと上がります。
でも、顧客の要望に100%応えることが、本当の顧客志向だと言い切れるのでしょうか。場合によっては、顧客が課題だと思っていることが、本当の課題とは限らないケースもあるはずです。
プレゼンは、顧客の課題を解決してこそ意味があります。そのためには、まず要望に素直に耳を傾け、顧客の言い分を受け止められる「顧客志向の目」を持つと同時に、顧客が対峙している顧客(例えば、販売会社なら消費者)を客観的に見つめる「消費者志向の目」の双方を持つことが重要なのです。
目の前の顧客の要望と消費者の見方が相反するような場合は、そこを理解してもらうプレゼンを行わないと真の課題解決には至らないはずです。時にはお客さんの意に反した提案をすることもあるでしょう。こうした複眼的志向ができないと、本当の意味でプロの提案はできません。
ちょっと理屈っぽい話になりましたので、今回も実例で紹介しましょう。X銀行から新卒採用を目的とする入社案内パンフレット制作を依頼されたときの話です。
先方からのオリエンテーションでは、すでにX銀行内で承認されたシートが配布され、それに従って制作を進めてほしいという要望がありました。
簡単に言えばこんな依頼でした。依頼者である先方の人事担当者を前に、いつものように課題を探る作業を開始しました。
わたし 「ほかの銀行さんと競合した場合、負けてしまうのはどんなケースですか?」
人事担当者 「規模です。学生はウチよりも規模が大きいY銀行やZ銀行に行ってしまう」
わたし 「接した学生さんにX銀行さんの特徴は理解されているのでしょうか?」
人事担当者 「十分に説明しているつもりです。それにウチとYさんやZさんとは、銀行のカラーだって違うし、営業の方法だって違いがある。そうでしょ?」
わたし 「なるほど。ではX銀行さんの特徴として何が一番魅力的だとお考えですか?」
人事担当者 「国際展開もがんばっていますし、地元密着の営業体制にしても盤石です。福利厚生も充実させていますので、決して他行には負けないという自負があります」
一連の打ち合わせの中ではっきりしたことは、皮肉にもライバル銀行に負ける理由が規模以外、はっきりしていないということでした。これまで使っていたパンフレットから読み取った限りでは、確かにX銀行から説明があったポイントはそれなりに魅力的でした。これが正確に伝われば競合に負けてばかりだとは思えません。でも、実際はなかなか勝てない。本当に学生は規模だけで3銀行を比べているのでしょうか? 本当にX銀行の魅力は伝わっているのでしょうか? X銀行の魅力は、オリエンにあったポイントなのでしょうか?
「うーん。本当の課題が見えない…」。プレゼンの準備作業は、最初の段階から暗礁に乗り上げてしまいました。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授