最終回の第5回では日本企業のダイバーシティマネジメントの実例についてプロジェクト事例から解説したいと思います。
第1回、2回、3回では、日本、米国、欧州におけるダイバーシティマネジメントについて、第4回では、日本における今後のダイバーシティマネジメントの方向性についてお話しいたしました。最終回の第5回では日本企業のダイバーシティマネジメントの実例についてPwCのプロジェクト事例から解説したいと思います。
M&Aでは、新しい組織のために労務管理などの諸制度をどのように整備していくか、といったハードな面が課題としてよく取り上げられますが、異なる社風を持った2つの組織を上手く統合し、それぞれの組織の持っている強みを引き出すための取組み、といったソフト面の課題にもしっか対処しなければなりません。PwCのダイバーシティマネジメントのフレームワークは、それぞれの組織の強みと、その要因である人的要素を明らかにし、それらを競争力の源泉となる多様性として「認知・管理」していくことで統合のシナジーを早期に創出します。
【ケース概要】
外資系自動車販売企業A社は、同じく外資系自動車販売企業B社との統合を決めました。両社ともにメーカーの系列企業でしたが、A社はメーカー直営の企業であり、B社はメーカー本体からの独立採算制をとっていました。A社は個人営業に強く、B社は法人営業に強みを持っていたため、統合後は、営業面での早期のシナジーが期待されました。
統合前の入念な情報収集・分析の結果、両社の統合シナジーを早期に発揮させるためには、ハード面の統合すなわち、組織の統合、役職や呼称の統合、処遇、評価の統合と同時に、ソフト面の統合、すなわち両社人材の多様性を認知し、個別に(もしくは価値観の親和性の高いグループごとに)適切に管理する仕組みをつくることが重要であると結論づけられました。
ダイバーシティチームでは、特にソフト面の統合に力を入れ、PwCのダイバーシティマネジメントのフレームワークを活用し、組織文化の融合と新しい社風の構築支援を約7カ月で行いました。
PwCでは、以下のステップに従ってアプローチを行いました。
【ステップ1:ビジョン策定と組織診断】
統合後のビジョン策定
社員のグルーピング
・組織診断の結果を踏まえ、両社の社員をその価値観、嗜好・行動特性等により、価値観の親和性が高い複数のグループに分類しました。
【ステップ2:行動モデルと実行施策案の策定】
組織統合・意識変革の阻害要因の可視化
行動モデルの作成
【ステップ3:シナジー創出のための管理指標の設計とモニタリング】
管理指標の設計
モニタリング
【本ケースで得られた効果】
上記ステップの実施により、統合後に社員がとるべき共通の行動モデルが理解され、個々のアクションプラン・管理指標が可視化されたことで、業務における平均的なパフォーマンスが向上し、社内全体の生産性が改善されました。
また、組織統合・意識変革の阻害要因が明らかになり、関連諸制度が早期に見直されたことで、旧企業同士の摩擦が比較的少なく、当初計画された統合シナジー(営業拠点の統合によるシナジー、整備士等のスキルを持った人間の再配置によるシナジー、オペレーション・仕入機能統合による稼働率の向上・コスト削減シナジー・異動・配置転換によるモチベーショの低下の軽減等)を達成し、組織統合の実現に寄与しました。
近年のビジネスのグローバル化により、日本国内においても国際競争力の確保に向けて、M&Aによる企業の合従連衡が進んでいます。ダイバーシティというと耳慣れない言葉かもしれませんが、M&Aはすべての企業にとって最も身近な課題の一つであります。本ケースでは、外資系自動車販売業界のM&Aを扱っていますが、多くの業界・業種において、今後もM&Aが進む公算が高く、制度・組織風土が異なる企業との組織統合を迫られる可能性があります。特にクロスボーダーといわれる国際M&Aについては、相手の組織と構成員の特性を理解し、受け入れることが国内のM&Aより重要な課題となってきます。
PwCのダイバーシティマネジメントのフレームワークは、このような複雑化したM&A後の組織統合のシナジーの早期創出のためのソリューションと言えます。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授