ダイバーシティの“今”を追う
【最終回】日本企業におけるダイバーシティマネジメントの典型的事例(1/3 ページ)
第1回、2回、3回では、日本、米国、欧州におけるダイバーシティマネジメントについて、第4回では、日本における今後のダイバーシティマネジメントの方向性についてお話しいたしました。最終回の第5回では日本企業のダイバーシティマネジメントの実例についてPwCのプロジェクト事例から解説したいと思います。
ケース1 M&A後の組織統合における組織のトランスフォーメーション
M&Aでは、新しい組織のために労務管理などの諸制度をどのように整備していくか、といったハードな面が課題としてよく取り上げられますが、異なる社風を持った2つの組織を上手く統合し、それぞれの組織の持っている強みを引き出すための取組み、といったソフト面の課題にもしっか対処しなければなりません。PwCのダイバーシティマネジメントのフレームワークは、それぞれの組織の強みと、その要因である人的要素を明らかにし、それらを競争力の源泉となる多様性として「認知・管理」していくことで統合のシナジーを早期に創出します。
【ケース概要】
外資系自動車販売企業A社は、同じく外資系自動車販売企業B社との統合を決めました。両社ともにメーカーの系列企業でしたが、A社はメーカー直営の企業であり、B社はメーカー本体からの独立採算制をとっていました。A社は個人営業に強く、B社は法人営業に強みを持っていたため、統合後は、営業面での早期のシナジーが期待されました。
統合前の入念な情報収集・分析の結果、両社の統合シナジーを早期に発揮させるためには、ハード面の統合すなわち、組織の統合、役職や呼称の統合、処遇、評価の統合と同時に、ソフト面の統合、すなわち両社人材の多様性を認知し、個別に(もしくは価値観の親和性の高いグループごとに)適切に管理する仕組みをつくることが重要であると結論づけられました。
ダイバーシティチームでは、特にソフト面の統合に力を入れ、PwCのダイバーシティマネジメントのフレームワークを活用し、組織文化の融合と新しい社風の構築支援を約7カ月で行いました。
PwCでは、以下のステップに従ってアプローチを行いました。
【ステップ1:ビジョン策定と組織診断】
統合後のビジョン策定
- まず統合後の人材のあるべき姿のビジョンを策定しました。その際、統合を機に推進する組織統合・意識変革の目的と行動指針を共有しました。
- また同時に、合併前の両社組織の多様性理解の実情および多様性に対する意識について組織診断を行い、組織統合・変革のための課題を抽出、ダイバーシティ・ビジョンおよび組織行動ポリシーを策定し、ダイバーシティマネジメントの方向性を決定しました。
社員のグルーピング
・組織診断の結果を踏まえ、両社の社員をその価値観、嗜好・行動特性等により、価値観の親和性が高い複数のグループに分類しました。
【ステップ2:行動モデルと実行施策案の策定】
組織統合・意識変革の阻害要因の可視化
- 組織診断の結果を踏まえ、組織統合・変革の阻害要因を組織と個人に分類し、組織に起因する要因については関連諸制度を見直し、個人に起因する要因については、関連諸制度と合わせてソフト面の意識改革を目的とした、新たな教育研修(ワークショップ形式での階階層別研修等)の場を設け、ビジョン実現のための土台づくりを行いました。
行動モデルの作成
- ステップ1で決定した、行動指針および組織行動ポリシーをもとに、組織統合・意識変革実現のために、「全社員共通の行動モデル」を策定、共有しました。
【ステップ3:シナジー創出のための管理指標の設計とモニタリング】
管理指標の設計
- ステップ1で分類した親和性の高いグループ別に、組織統合・意識変革実現の阻害要因をさらに分析・整理し、ステップ2で定義した「全社員共通の行動モデル」に向けてのアクションプランおよびそれらを計る管理指標を設定しました。
モニタリング
- 設定した管理指標に基づき、組織長を管理責任者としてモニタリングを行い、必要に応じて個別面談・軌道修正を行いました。
【本ケースで得られた効果】
上記ステップの実施により、統合後に社員がとるべき共通の行動モデルが理解され、個々のアクションプラン・管理指標が可視化されたことで、業務における平均的なパフォーマンスが向上し、社内全体の生産性が改善されました。
また、組織統合・意識変革の阻害要因が明らかになり、関連諸制度が早期に見直されたことで、旧企業同士の摩擦が比較的少なく、当初計画された統合シナジー(営業拠点の統合によるシナジー、整備士等のスキルを持った人間の再配置によるシナジー、オペレーション・仕入機能統合による稼働率の向上・コスト削減シナジー・異動・配置転換によるモチベーショの低下の軽減等)を達成し、組織統合の実現に寄与しました。
近年のビジネスのグローバル化により、日本国内においても国際競争力の確保に向けて、M&Aによる企業の合従連衡が進んでいます。ダイバーシティというと耳慣れない言葉かもしれませんが、M&Aはすべての企業にとって最も身近な課題の一つであります。本ケースでは、外資系自動車販売業界のM&Aを扱っていますが、多くの業界・業種において、今後もM&Aが進む公算が高く、制度・組織風土が異なる企業との組織統合を迫られる可能性があります。特にクロスボーダーといわれる国際M&Aについては、相手の組織と構成員の特性を理解し、受け入れることが国内のM&Aより重要な課題となってきます。
PwCのダイバーシティマネジメントのフレームワークは、このような複雑化したM&A後の組織統合のシナジーの早期創出のためのソリューションと言えます。
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