今回の第4回は、日本における今後のダイバーシティマネジメントの方向性についてお話したいと思います。
第1回、2回、3回では、日本、米国、欧州におけるダイバーシティマネジメントについて話をしてきました。今回の第4回は、日本における今後のダイバーシティマネジメントの方向性についてお話したいと思います。
第1回で提言したように、現在の日本企業においては、ダイバーシティマネジメントは女性や障害者の活用が主流です。欧米企業のように、多様性により生み出させる価値を組織全体で共有し、それを見える成果として企業成長の原動力に換えるということの実践は、ごくわずかな企業しか行っていません。
原因として、日本企業では欧米企業と比較して、多様性を認知し、ダイバーシティマネジメントを推進する必要性への認識が薄かったこと、ダイバーシティマネジメントが各企業において自発的には行われてこなかったことが挙げられます。
しかし、日本企業を取り組む環境は、以下の3つの要因により大きく変化しており、ダイバーシティマネジメントへの取り組みは、日本企業にとって逃れられない急務となってきています。
今後の日本企業のダイバーシティマネジメントは、従来のようにあらかじめ国によって定義された「多様性」に対応していくのではなく、組織に内在する多様性により生み出される価値を認知、共有し、企業成長の原動力としていく必要があります。そのためには大きく2つ、「経営レベルでのダイバーシティマネジメントへの取り組み」「主体性を持ったダイバーシティマネジメントの実施」が重要となります。
経営レベルでのダイバーシティマネジメント
現在の日本企業のダイバーシティマネジメントは多様性を活用することの目的が不明確、もしくは社員に理解されていない場合が多く見られます。国内市場が伸び悩む中、グローバル化を進める上で、「わが社も乗り遅れるな」といった動機から人事主導でダイバーシティマネジメントに取り組み始めた会社も少なくないでしょう。今後重要となるのは、自社におけるダイバーシティマネジメントの要否を熟考し、継続的な成長を続けるためにどのようなダイバーシティマネジメントを行う必要があるかを経営課題として考え、実施していくことです。具体的な施策例は以下の通りです。
社員ひとりひとりが主体性を持ったダイバーシティマネジメントの推進
今後は、組織を形成する「個」から、企業がいかに「+αの価値」を引き出すことができるかを模索し、それを組織の生み出す「+αの価値」として顧客に提供していくことが重要となります。そのためにはまず始めに、自社を形成する「個」がどのような人々で、それらの「個」に内在する「+αの価値」は何なのか、個々の「+αの価値」から生み出される「組織としての価値」は何かを考えていただきたいと思います。
その際に、社員の「生き方」「働き方」に合わせた「+αの価値」を引き出す施策として、EUの「フレキシキュリティ」やデンマークやドイツの施策に見られるような柔軟な雇用、労働形態、ライフスタイルの提供、働く女性の支援、「個」の能力、スキルを最大活用するための能力開発、米国企業のような女性の積極活用等の施策から学べるところは多くあります。
また、上記は既存社員だけでなく、将来的に自社で活躍し得る潜在人材も意識して実施することも重要です。
上記のように、日本企業がダイバーシティマネジメントを考える上で、欧米企業のダイバーシティマネジメントより学ぶところは多くあります。しかし大前提として、日本と欧米では、国単位で言えば、歴史的背景、文化、法制が違い、企業単位では、戦略、人材ポートフォリオ、企業文化、各社員のキャリア感が違うという点で留意が必要です。「自社の戦略は何か」、「自社の「個」はどんな人材か」「多様な「個」を自社ではどのように活用していくべきか」といったことを熟考し、必要に応じて欧米企業の施策を参考にして、自社独自のダイバーシティマネジメントを考案・推進していくことが重要です。
PwCのアプローチは従来のような表出された多様性に関する問題点(女性の活用が進んでいない等)の課題解決でだけではなく、各社が「自社に合ったダイバーシティマネジメント」を考案し、またダイバーシティマネジメントを通じて、組織ビジョンの共有、多様性の確認、価値創造のプロセスの統合を支援していきます。具体的なステップは以下の通りです。
ステップ1:ビジョン策定と組織診断
組織内の多様性を競争力の源泉とする共通意識を醸成し、組織変革の目的と行動指針を共有。具体的には、以下を実施。
ステップ2:行動モデルと実行施策案の策定
ビジョン実現のためのアフィニティーグループごとの行動モデル(価値観、嗜好・行動特性等)を策定、共有するとともに、行動モデルを機能させるための各種施策を策定。具体的には、以下を実施。
ステップ3:業績指標へのリンクとモニタリング
ダイバーシティ・ビジョンと企業戦略を連動させ、組織の行動計画を策定するとともに、経営管理指標に基づいたモニタリングを実施するための各種施策を実施。具体的には、以下を実施。
上記の詳細なステップ、実施事例については、第5回(最終回)でご紹介していきます。
渡邊玲子(わたなべ れいこ)
プライスウォーターハウス クーパース株式会社
HRM シニアマネージャー。2001年5月ユニファイネットワーク(PwC P&Cの前身)株式会社入社以来、内外資系企業を中心とした、幅広い業種において組織・人事戦略に関わるコンサルティングに10年以上携わる。最近では、M&Aにかかわるプレ・ポストディールサポートを一貫して行ない、企業再生ファンドによる企業買収に伴うデューデリジェンス・雇用調整・Day1を見据えた具体的な統合計画を策定、PMIフェーズでは、企業戦略にひもづいた人材マネジメント戦略を立案し、採用から代謝までの人材フローマネジメント設計および人事基幹三制度の制度設計をプロジェクトマネージャーとして推進する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上
早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授