「一瞬も一生も美しく」の実現に向けた顧客サポートに向けて(後編)資生堂が貫く美学

「お客さま」の声を迅速にかつスムーズに共有し活動に結びつけるという一連のプロセスを支えるためには仕組みとしてのITの役割が欠かせない。

» 2010年10月12日 10時43分 公開
[森 一恵,ITmedia]

 前編はこちら。

「お客さま志向」を支えるIT

 「お客さま」の声を迅速にかつスムーズに共有し活動に結びつけるという一連のプロセスを支えるためには仕組みとしてのITの役割が欠かせない。

 まず、お客さま窓口スタッフが商品や宣伝などの必要情報を文章や画像で自由に引きだせる「お客さま相談支援システム」、次に顧客との対応中にいただいた意見や要望を即時に入力できる「お客さま情報入力システム」、実際の対応状況を共有・記録する「お客さま対応情報管理システム」そして申し出内容の社内共有ならびに分析に使われる「お客さま情報解析システム」の4つのコア機能を搭載した「ボイスネットC」という共通システムを1996年から導入して活用している。

出典:資生堂ホームページ

 フロントラインであるお客さま窓口や店頭に集まる「お客さま」の声が、この「ボイスネットC」を通じて商品開発や研究部門のバックヤードサイドと共有され、結果としてそれを反映した商品が再び店頭に並ぶという一連の活動により、お客さまの声が目に見える形になる活動を支えている。

 また、ITにインプットされる情報は選定することなく全て蓄積される。これは実際の現場でお客さま対応するスタッフが収集する情報をありのままの生きた情報として収集したいという企業姿勢の現れである。このような生きた情報が資生堂全体で共有されることで、社員が「知りたい時」に「知りたい情報」を活用し、品質の高いサービスの実現に結びついている。

顧客情報活用におけるさまざまな効果

 伝統的なマーケティングは、自社の魅力を最大化し、いかに訴求するかを最終目的として発展してきたものであり、この考えはマーケティング活動の主題である。特に「お客さま」の要望や問い合わせはVoice Of Customerという名称でマーケティング分野の概念として広く知られ、このような声を活用した効果効用を紹介した実務書も多数ある。特に昨今の事業環境においては、コアとなる商品やサービス自体での差別化が難しい。自ずと付随するサービスや雰囲気などの無形性の高い部分の価値が評価され、結果として企業ブランドが形成され、それが競争力の源泉となる。

 しかし、冒頭で述べたような行き過ぎた企業活動は、時に社会や環境にネガティブな影響を与えていることも否めない。有害化学物質放出や計画性の無い森林伐採など企業利益を追求した結果、われわれ社会にそして最終的には経済にも悪い影響を与えてしまう可能性もある。

 今の時代の企業経営に必要なことは健全な企業が、イメージ通りの健全な経営をすることである。

 よって常に市場、そして顧客に自社の姿がどう映っているかを監視し、改善する仕組みが必要なのである。この結果が間接的に良い企業を作り上げそして企業ブランドを強める。

 これまでコンタクトポイントはサービス提供やプロモーション活動の手段としてみなされてきた。しかし、顧客とのコミュニケーションで得られる情報は、企業とその企業の製品やサービスがどのように社会や市場で受け止められているかを示唆するミラー機能として活用できるのではないかと考える。

 つまり、潜在的な顧客の要求や懸念など将来の事業成長に活用できる情報だけでなく、現状では気づかない細かな部分のフィードバックも多く隠されていると思われる。

 今回の取材で顧客の声が実際の商品パッケージなどに反映されているような資生堂の事例を見ると、コンタクトチャネルに集まる「お客さま」の声に立脚した継続的な活動の積み重ねこそが、環境破壊防止や消費者リスクの軽減につながり、その結果として資生堂ブランドをより強めていると考えられる。また経営的な視点で言えば、社会の信頼を失墜し、ブランドイメージを崩壊するリスクを早期の段階で見つける予兆監視機能としても活用できる。それが安定的な収益を生み出し、健全な経営が実現されると考えられる。コンタクトチャネルが果たす新たな重要な機能を発見できた。同時に、たゆみない企業努力に裏打ちされていることに強く心を動かされた。

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著者プロフィール

森 一恵(もりかずえ)

早稲田大学大学院卒。現在同大学博士課程に在籍する傍ら、早稲田大学IT戦略研究所研究員として活動。主な研究領域は、マルチチャネルを活用した商品および販売戦略、マルチチャネルサービスマーケティング。


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