日本エルシーエーの木下義和社長と、同社の特別顧問で、ソフトブレーンの創業者として知られる宋文洲氏が、2011年を勝ち抜く企業に求められるリーダーの在り方をテーマに対談した。
2011年が幕を開け、1月も後半を迎えようとしている。人口減少による内需の縮小を背景にした先行きへの悲観論が日本列島全体を包んだのが2010年だった。2011年は、状況を打開するための方策を探る年になりそうだ。そんな背景の中、覆面調査などのサービスを軸にコンサルティング事業を展開する日本エルシーエーの木下義和社長と、同社の特別顧問で、ソフトブレーンの創業者として知られる宋文洲氏が、2011年を勝ち抜く企業に求められるリーダーの在り方をテーマに対談した。
木下 現在の日本経済に求められるリーダーの条件は何でしょうか。
宋 最近は変わることにとらわれている経営者が多いと感じます。実は、変化すること自体は目的ではありません。変える必要のないことを変えようとするのは「偽リーダー」の行動です。「維持する勇気」も必要で、それが3年後くらいに結果として分かることがあります。
リーダーの仕事は、組織を強くすることです。自分自信が強くても何の役にも立ちません。自分が強いことによってメンバーのやる気が失われるならば、その強さは隠した方がいいのです。しかし、多くの人はいわゆる「リーダー」らしく振る舞いたいために、せっかくうまくいっていることまで変えてしまいます。例えば、新しい部長はまず前任者のやり方を否定しますね。組織を円滑に回すために、本質を見極める力がどうしても求められるのです。
重要なのは、物質に頼らなくてもリーダーが報われる瞬間がたくさんあるということを感じられるかどうかです。それはリーダーであるかどうかの分水嶺ともいえます。戦場で使命感を持っている兵士は、敵陣に乗り込む際に、意外にも気持ちが軽いと言われています。そのたとえがどうあれ、最後は自己満足がものをいうのです。リーダーとして、逃げなかったという事実が満足感になるわけです。
木下 わたしは、優れたリーダーが持つべき重要な考え方の1つが、「現場主義」であると考えています。現場を見ないのは、電機メーカーの社長が自社商品を使わないのと一緒です。現場を見ずに机上だけで議論をしていると、現場と議論の内容に必ずギャップが生じます。このギャップを現場の社員がどう処理するのかといえば、「ふりをする」わけです。上層部の意向に合致しているふりをすることで、その場をやり過ごす――。無駄であり、間違っているのは明らかです。経営者は現場に行くべきです。それにより、社員の意識は全く違ってきます。金銭のために仕事をしなくなるのです。これまでの経験からも、現場から積極的に提案する職場が実現することが分かっています。
宋 人間は、物理的に近い者に心を許します。例えば、わたしは日本にいるときは日本経済新聞を読まないと何か気持ちが悪いのですが、北京の自宅にいるときは、そうは感じません。ビジネスでも同じです。現場で見かけない人がいくら正論を吐いても、ピンときません。それはひとえに「遠いから」なのです。従って、現場の社員の心をつかむためにも、リーダーは現場に行くべきなのです。
ITmedia 木下さんは「新幹線経営」を打ち出しています。これはどんなものでしょうか。
木下 通常の経営を、社長や役員のみが動力となって、その他のスタッフは引っ張られるという意味で「機関車経営」と呼んでいます。先頭車両のみが駆動輪を持つため、トップの引っ張る力によってスピードが変わります。後に続く車両が多いほど、大きなトップの力が必要になるのです。これに対し、われわれが提唱する「新幹線経営」は、社長や役員はもちろん、店長や現場のスタッフに至るまで、すべての車両が動力を持ちます。機関車が時速80kmしか出せないのに対し、新幹線は300kmで走り、何倍もの推進力を生み出すのです。
実践するためには、効果的な権限委譲が必要です。従来のマネジメントスタイルでは、トップから指示・命令が下り、その下の本部などの組織がさらに現場のメンバーを管理します。これでは、現場は管理下におかれるだけで、権限もありません。自発的な工夫の提案などは出てこず、現場はやらされ感でいっぱいになってしまいます。これにより、改革をしたとしても全員が「改革疲れ」に陥るのです。
一方、わたしが推進する本質的マネジメントスタイルでは、現場のスタッフやマネジャーに権限をより権限を委譲します。これを「甲子園方式」と呼んでいます。管理下に置くのではなく、野球でいえば公式試合や練習試合をこなしてもらい、経験を積みながら育て、本番である甲子園での戦いに備えるのです。本気の取り組みの中でしか勝てる人材育成はできません。現場をいかに実戦を通じて育てるかが鍵といえます。
ITmedia 日本の教育制度に一言あるそうですね。
宋 指示待ち社員ではだめ、という指摘をさまざまな場面でみかけますが、いまだに日本企業の7割の社員は指示待ち型だと考えています。でも、指示されたことをしっかりやるならまだよいともいえます。中国人には指示されてもやらない人が多いですから(笑い)。ただし、失敗をしてもいいので、教育をし直すというのは良い考えです。現在成功しているニトリなどは、ベンチャーと同じ考え方で経営をしていると聞きます。
そうした企業は、ストレスのあるきつい仕事を与えて、だめな社員はやめさせることも辞さない。そうすることで、会社側のニーズとそれに対応する社員がだんだんバランスしていくるのです。仕事から逃げる社員はどんどん逃げ場を失っていきます。「だめな社員はやめさせろ」などといえば10年前なら大変なことになっていましたが、日本でもその雰囲気が変わり始めています。
木下 第二次世界大戦を終えたころからの日本の教育制度が、本質的な意味で正しくなかった。勝負事であるスポーツの方が進んでいるのが分かります。終身雇用制度などが一例です。最近になり価値観が変化し始め、キャリアアップのための転職などがしやすくなったことなどにより、状況は良くなったといえます。流れを継続するためには、やはり力強いリーダーの存在が不可欠といえます。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授