では、組織の力を高めるためのワークスタイルの変革の鍵は何なのか。倉重氏は「多様性」を上げる。
「日本はユニフォーミティ社会だったのです。みんなが同じユニフォームを着たような、一種の画一的な社会ですね。あうんの呼吸で効率的に仕事を進めていくにはもっとも適したやり方です。しかし、ここまでお話してきたように、もうマーケット・ニーズは多様化し、その変化のスピードも加速している。企業のビジネスモデルもそれに応じて多様化が迫られているし、そこで働く社員の価値観や考え方もさまざまです。みなと同じことをしていて価値を生みだすことはできない時代、いかに組織のイノベーション力を高めるかがポイントなのです。そこで必要なのは、多様性に対して寛容である姿勢です。異質なものを尊重し、それぞれの社員をプロフェッショナルとしてマネジメントする意識が企業には必要になってきます。」
もうひとつ、倉重氏は「ライフワークバランス」というキーワードをあげる。あえてライフを先にしているのは、生きるうえで優先するべきはライフだと考えているからだ。
「大小さまざまな労働組合の報告を見ると、企業で働く人のおよそ7割が、程度に関わらず心の健康をなんらかの形で崩していることが読みとれます。人間はモチベーションが高い状態でなければよいパフォーマンスは出せない。ワークスタイル変革にはライフワークバランスの考え方が浸透していることが前提となります。」
異質なものを認め、ライフワークバランスを尊重することを前提とした環境で、プロジェクトチームで仕事を進めていくことが、新しいワークスタイルの確立につながっていく。そこでは、ナレッジやノウハウの共有、そして作業のスピードアップを図るためにさまざまなIT基盤を活用することは言うまでもない。
なお、プロジェクト運営について、倉重氏は今後特に必要なってくるポイントについて次のように話す。
「これまであちらこちらで大小に関わらずプロジェクトが展開されていますが、これまで、その運営体制に"リーダー"はいても"オーナー"はいなかった。プロジェクトが失敗したり、進ちょくが遅滞しチームのモチベーションが下がってしまう原因には、『トレードオフを決定する人がいない』という現状があると考えます。変化の激しい環境の中で、プロジェクトを通じて価値を創り出すためには、その都度適切な判断を下すオーナーの存在が不可欠なのです。」
プロジェクトをとりまく状況変化に応じて、コストをとるか、進ちょくスピードをとるか、あるいは、クオリティをどうするか、といった判断はつねに求められる。プロジェクト・リーダーはこうした判断については会社の上層部組織に判断を仰ぐことが多く、それが迅速な進行を妨げる結果につながる。正しい判断は、プロジェクトが創り出す価値を最終的に享受する人、すなわちオーナーにしか出来ないからだ。
プロジェクト単位で組織が柔軟に対応し、高いパフォーマンスに結実させていくということはこれまでも続けられてきた。しかし新しいワークスタイルを取り入れることで、いままでにない価値創造ビジネスの形が出来上がりそうな予感がするのは、記者の錯覚ではないはずだ。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授