科学者はかつて、人の脳は成熟すると、それ以上は変わることはないと考えていました。しかし、今はそうではないことが分かっています。人間の脳はおそらくこの世界で最も複雑な構造をしていますが、あるとてもシンプルな特性を持っています。それは、脳は固定されていないというものです。つまり、適応力を持っています。人の脳は「樹脂」であり、経験に応じて形を変えます。
テクノロジーの普及により、人間の脳は極めて多様な形で変化しています。そして、それには大きな意味があります。
サイバーカルチャーによって、人の集中の仕方が変わってきており、素早く浅く繋がるために深い思考や集中力が妨げられています。このような変化は重大なことです。なぜなら、真剣に集中して考えることでのみ、大きくクリエイティブな発想が生み出されるからです。
また、コンピューターは読み方も変えてしまいます。印刷された文書は論理的に読み進め、有意義なアイディアを見つけるために熟考する際に便利ですが、コンピュータースクリーン上のコンテンツは表面上のデータを頭に入れる断片的な読み方をするのに向いています。しかし、電子化された文書では、その背景にある事実をきちんとくみ取ることができません。同じように、オンライン上の人間と繋がることで個人の自由や管理は広まりますが、「偶然の出会い」の機会は減り、共感し合える関係も弱くなってしまいます。
世代間の違いを比べることは難しいことですが、近い未来を予測するにはよい方法の1つです。
過去数十年間で、コンピューターは社会全体に広まり、特に若い人に使用されるようになりました。2010年の研究によると、米国人の8歳から18歳までの若者は、1日のうち平均11時間をなんらかのスクリーンの前で過ごしていることが分かりました。それにはテレビ、コンピューター、携帯電話、iPod、が含まれ、2つ以上を同時に使用する場合もあります。彼らは常勤の仕事と同じだけの時間をインターネットやその他のデジタルメディアに費やしているのです。
今の10代の世代を「スクリーンネージャー(コンピューター世代)」と呼ぶ人がいます。なぜなら彼らはコンピューターを介して世界を体験しており、それが彼らの価値を決めるからです。
彼らは自分の生活全てが自分の好きにできることを期待しており、ボタン一つで物事が展開すると考えているため、我慢強さをほとんど持っていません。彼らから見た世界は、前の世代から著しく切り離された世界なのです。また、彼らは繰り返されるデジタルでの相互作用に慣れているため、頭は極めて明敏です。しかし、同時に浅はかでもあります。
知識との関係性が変わっているため、彼らは厳密な知識を失いつつあります。もしインターネットが記憶してくれるのなら、彼らは物を覚えることはありません。また、彼らは決められた文章のルールを守りません。ネット上の情報の信ぴょう性を判断する力も弱くなっています。さらに、スクリーン上の文章の読み方は、ほとんどの人の本の読み方とは異なります。彼らの目は、興味の対象が移る度にきょろきょろと動くのです。
しかし、10代の世代が経験している変化は10代の若者の責任ではありません。彼らの両親や教師が彼らの世界をコンピューターで埋め尽くした張本人であり、そのコンピューターが子どもたちに即座の反応が返って来ることが当たり前だと教え、そしてさらに重要なことに、彼らの脳の繋がり方を変えたのです。
現代のおもちゃはより構造化されており、昔のおもちゃよりも守らなければならないルールが沢山あります。そのため、子どもの「自由な遊び」が全体的に制限され、子どもの想像力が抑制されています。教育界はデジタルメディアに対する取り組みについて、子どもたち自身と変わらず慎重さをほとんど持っていません。研究によるとコンピューター技術と学習にはほとんど、あるいはまったく関連性は無いと示されていますが、テクノロジーに教育費がつぎ込まれています。
子どもたちは自分が使っている教材についてあまり考えておらず、自分自身について考えています。また、オンライン生活が高度にネットワークで繋がれているため、子どもたちは他の人が自分をどのような人間だと考えているか、より簡単に知ることができます。そのため、子ども時代の素直さを早い時期に失ってしまうのです。将来、世界が今まで以上に素早く、より技術的でバーチャルで、規定的になることから、子ども達(および大人達)に必要なものはそれに釣り合う力です。
冒頭でコンピューター=「電脳」という話をしましたが、コンピューターと人間の脳は決定的な違いがあることを忘れてはなりません。人間の脳は生き続ける限り環境によって柔軟に変化を続けていきます。それが人間の脳の優れた点です。それに比べコンピューターという「電脳」は膨大なデータを蓄積することと、その情報からユーザーの求めるものを瞬時に並べ替え、ディスプレイに表示する能力にのみ長けているわけです。
恐ろしいことは、そうしたコンピューターを利用しすぎることにより、コンピューターの使い方や情報に対する価値にばかり依存しすぎる事になります。確かに、コンピューターは便利なものであり、社会生活を送る上で必要不可欠なものであるがゆえ教育現場においても幅広く活用されている事実はありますが、実際の子供の能力開発には決して良い影響ばかりを与えていないのです。それは精密に作られた玩具と一緒で、それを使って遊ぶことはできても、遊び方を創出する訓練にはならないのと一緒と言えるでしょう。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授