ファシリテーター型リーダーの「巻き込み力」〜その6エグゼクティブのための人財育成塾(2/2 ページ)

» 2011年11月02日 08時00分 公開
[井上浩二(シンスター),ITmedia]
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日本企業が取り組むべきオープンイノベーション

 「超」成熟といわれる日本市場での新たな成長戦略を描くために、またグローバル化を図るために、戦略オプションとしてオープンイノベーションを掲げる企業が増えている。自前主義に陥りがちな日本企業が、限られた経営資源の枠を取り払って戦略を検討し、単独では創出できない付加価値を企業の枠を超えて作り出していく手法として検討すべきオプションといえる。ただし、多くの日本企業のオープンイノベーションは、残念ながら研究開発や商品開発に限られている事が多いように思われる。物流、販売、サービス、マーケティングといったバリューチェーン全体を視野に入れ、ビジネスモデル全体に対するオープンイノベーションを検討する姿勢が必要であろう。

 豊かな生活社のケースでは、コンテンツ開発から海外での販売、サービスまで含む話に広がった。これは、豊かな生活社単独では考えてもいなかった、更に実現のハードルも非常に高いオプションである。これをコストレス、工数レスで実現できれば、豊かな生活社にとって、更に日本の出版業界にとって非常に意味のあるビジネスモデルイノベーションとなるかもしれない。このような機会を目の前にして、プロジェクトリーダーは次に何をするべきだろうか。

企業同士の「握り」が最も重要

 企業間の協業は、企業のトップ同士での話し合いで作られる事もあるが、豊かな生活社のケースのように現場レベルでの検討から始まる事も多い。ただし、現場からのボトムアップで始まるケースは、話だけで終わってしまう事が多々ある。それは、企業で承認されていない活動に現場の担当者が時間を割けず、その活動のための社内の利害調整なども難しい事が多いからである。

 島田編集長の場合は、まだプロジェクトの目的とスコープの変更も高杉社長に相談していない状況であり、その報告と同時に学習塾A社の野原社長にスコープと取り組み方、更には両社の役割などに関して協議してもらえるように段取りすべきである。異なる企業同士の協業においては、両社のベクトルが合っている事が最も重要だからである。そのベクトル作りができれば、周知徹底して活動することで適切な体制も作る事ができる。

 両社間でのベクトル合わせを行う前に、豊かな生活社では議論しておかなければならない事がもう1つある。それは、プロジェクトのスコープである。学習塾A社の伊藤室長は、海外展開までも視野に入れて検討してきたいとの希望を伝えているが、これは電子書籍事業参入の検討という豊かな生活社のプロジェクトスコープを超えている。そもそも、電子書籍を出版するだけでも豊かな生活社にとっては未知の領域である。そのスコープを、これまで経験がない海外ビジネスにまで一気に広げるのはかなり無理がある。仮にスコープに入れるにしても、そのタイミングや手法などを検討し、自分たちの考えを整理しておく必要がある。

 一方、伊藤室長から海外展開の話は聞いたものの、学習塾A社としてどこまで具体的に検討しているかはまだ不明である。高杉社長に野原社長と話をしてもらう際に、その確認とこの協業を行うために今下期の活動でどこまでの検討が必要かを明確にしてもらい、両社の「握り」を適切に行ってもらう必要がある。

著者プロフィール

井上 浩二(いのうえ こうじ)

株式会社シンスターCEO。アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)を経て、1994年にケーティーコンサルティング設立。アンダーセンコンサルティングでは、米国にてスーパーリージョナルバンクのグローバルプロジェクトに参画後、国内にてサービス/金融/通信/製造等幅広い業種で戦略立案/業務改善プロジェクトに参画。ケーティーコンサルティング設立後は、流通・小売、サービス、製造、通信、官公庁など様々な業界でコンサルティングに従事。コンサルタントとしての戦略立案、BPRなどの実務と平行し、某店頭公開会社の外部監査役、MBAスクール、企業研修での講師も務める。


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