“愛社精神”はもはや化石、今や“愛職・愛品精神”の時代だ生き残れない経営(2/2 ページ)

» 2011年11月28日 08時00分 公開
[増岡直二郎(nao IT研究所),ITmedia]
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愛社精神に代わるものは

 ところで、企業を取り巻く客観的状況・主観的状況が大きく変化した今、愛社精神に固執することはむしろ有害でさえあると考える。なぜなら、

 (1)愛社精神が高じると、どうしても所属企業への忠誠心・帰属意識が優先し、内向き指向になる。その結果閉鎖的になり、滅私奉公で従順にして盲従意識が醸成され、やがて倫理観が欠如しかねない。その可能性を打破するブレークスルーの発想がなかなか出ない。

 (2)組織の欠陥を愛社精神に結び付けてしまうおそれがある。人材育成を生業とするT.M.社のホームページで、愛社精神が薄れてきた組織の共通した症状として、目先業績追求・厳しい人材育成の不在・事なかれ人事評価・利己主義などが企業風土として定着するとしている。しかし、これらがどのように愛社精神と関係があるのか。これらは、むしろ経営者の方針に影響される症状ではないか。

 (3)近年非正規社員が増え、意識の上で割り切り社員が増えている状況下で、愛社精神に拘泥するのには無理がある。空回りするだけ。別の精神を考え出さなければならない。

 (4)愛社精神をあまり強調すると、従業員に働きがいを持たせる工夫とか、能力ある人材を育てる努力とか、人材活用面での経営の本来の課題を忘れかねない。

 では、企業は愛社精神に代わるものとして何を考えるべきか。企業人が仕事に何を求め、働く目的を何に求めているのかを探ることによって、方向性が見えるかもしれない。

■第4表:仕事に強く求めるもの(上位4位)

仕事に対して何を求めているか 回答比率%
やりがい、取り組みがい 72.4
自分の能力やセンスを活かせる 57.9
成果に応じた報酬が得られる 56.5
スキル、ノウハウを習得できる 50.6
NTTデータ経営研究所、2009.12.1.〜12.3.

■第5表:働く目的(上位4位)

働く目的は何か 回答比率%
収入を得るため 90弱
自分の能力・人間性を高める 60弱
仕事を通じて社会に貢献する 40強
社会的に自立するため 20強
エン・ジャパン、2010.10.28〜11.24.

 

 ここで、愛社精神に代わるものとして自ずから答えが出てくる。すなわち「働きがい」を感じ、「能力を高める」ような仕事を愛することである。自分の従事する職務を愛するという意味で「愛職精神」である。企業は、従業員が働きがいを感じ、スキル・ノウハウなどの能力を向上させることができると感じるほど職務を愛するように仕掛け、本人も自分の職務を愛することによって働きがいを感じ、能力を高めていくことができる。

 一方企業としては、「働きがい」や「能力向上」だけでは困る。顧客から評価を受ける製品やサービスについて質を確保することが企業の生命を左右することから、従業員に製品・サービスを愛してもらわなければならない。

 従業員は従業員で、自分が関与して完成させた対象に愛着を持つのは人情であることから、自分が手をつけた製品やサービスに愛着を持つのは当然である。

これらのことから、製品やサービスを愛する「愛品精神」が求められる。

 「愛社精神」は議論の対象にすべきでない。今や「愛職精神」と「愛品精神」の時代だ。ただし、その結果として気が付くと、「愛社精神」がそこにできていたということはあり得るだろう。

著者プロフィール

増岡直二郎(ますおか なおじろう)

日立製作所、八木アンテナ、八木システムエンジニアリングを経て現在、「nao IT研究所」代表。

その間経営、事業企画、製造、情報システム、営業統括、保守などの部門を経験し、IT導入にも直接かかわってきた。執筆・講演・大学非常勤講師・企業指導などで活躍中。著書に「IT導入は企業を危うくする」(洋泉社)、「迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件」(洋泉社)。



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