現地のことは、現地の人に任せるグローバルへの道 SONY成長の軌跡(2/2 ページ)

» 2012年01月24日 08時00分 公開
[郡山史郎(CEAFOM),ITmedia]
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グローバルで勝つためには

 ソニーブランドは広く行きわたりました。盛田氏は、最初はソニーが日本製であることを知らせる必要はない、といっていました。日本製の悪い評判はまだ無くなっていなかったのです。日の丸についてはどうでしょうか。

 盛田氏はわたしたち若手日本人を当時唯一の存在であった日本料理専門店、斉藤レストランに連れて行ってくれました。「この女将さんは、わたしの親父のガールフレンドでね、名古屋で芸者をやっていたんだ。偉いもんだ。何しろ店の先に日の丸を立てたんだからね。」

 日本料理屋は日の丸を出すでしょう。日本でもイタリアレストランなどには国旗が出ています。米国ではどこの国旗も出せますが、必ず同じ大きさの星条旗と並べて出す規則になっています。ソニーが5番街にショウルームを開設した際、しばらくして日の丸を立てました。5番街の日章旗として有名になったものです。盛田氏は熟慮の結果日の丸は目立つ、宣伝効果が絶大である。話題になるならやろう、と決断したものだと思います。

 わるい評判でも、ない評判よりははるかにいい。反日感情があるなら、それを逆手にとって宣伝してやろう、くらいの気持ちだったでしょう。盛田氏は猛烈な愛国者、国粋主義者でしたがそれを表に出すことはしませんでした。米国人が一番愛しているのは星条旗であることをよく理解していたからです。米国人に一番好かれ、信用されていた盛田氏の真骨頂でしょう。

 ソニーアメリカの社長は盛田氏が兼任していましたが、日本も米国も規模が大きくなったので後任に待望の米国人社長を任命しました。1970年に日本企業として初めてソニーの株式をニューヨーク証券取引所に上場するときに貢献した、米国証券会社の社長シュワルゼンバッバ氏です。われわれ社員を集めて米国人幹部の一人が米国人の社長が来ることになった、とアナウンスしたときの嬉しそうな顔はいまだに忘れられません。

 当時の日本人スタッフにとっては、いささか不安な決定でした。米国人は日本人より給料が飛びぬけて高い。それにしては、休暇ばかり取りあまり働かない。米国人トップは、日本人スタッフを排除するだろうし、それでは日本の事業部門との関係はおかしくなる。それはそのとうりになりました。日本人スタッフは本社の各部門から派遣されてきていますから、そこに帰属し、忠誠心を持っています。米国人トップは全ての社員の忠誠心を自分に集中させようとし、人事権も持っていますから反目がでるのは当然です。

 盛田氏はそのようなことは十分予想していました。しかし、信念として、日本人の言い分を唯々諾々と聞くような米国人だけでは、米国そのものとの競争には勝てない。優秀な米国人を使いこなせる、さらに優秀な米国人がマネジメントしなければ、自分の目的は達成されない、と考えていました。現地のことは、現地人に任せる。それを日本人が統治する。ローマ帝国の手法です。盛田氏はそれをグローバルローカリゼーションと言っていました。

 国は個人と並んで、現在の絶対的な存在単位であるといいました。盛田氏は戦争と米国移住の経験から、その信念をますます強固なものにしました。グローバルに事を運ぶなら、国ごとに、その国の人を使って統治する、その技能をみがかなければならない。絶対的な権力を、国をまたいで行使するにはどうしたらよいか。政治的に、あるいは軍事的には不可能かもしれない。しかしビジネスの世界では、非常に可能である。困難ではあるが可能である。その実例がグローバルローカリゼーションである。これが盛田氏の実際の行動の内容です。

 さて、皆さん、いかがでしょうか。そう簡単にはいかないだろう。それに、国は米国だけではない。他の国はどうなっていたのだろうか。そのような質問には次章以下で回答したいと思います。

著者プロフィール

郡山史郎

株式会社CEAFOM代表取締役社長

1935年鹿児島県生まれ。一橋大学経済学部卒。1959年ソニー入社

スイス、米国に市場開拓マネジャーとして通算12年滞在。米国大企業に転じて、日本代表、北アジア担当、複数の関連会社の社長を歴任。1981年にソニーに復帰し、取締役情報機器事業本部長、常務取締役経営戦略本部長、資材本部長、一般地域統括本部長など歴任。2004年株式会社CEAFOM創業。

国際大学、早稲田大学、一橋大学、九州大学など講義、講師多数。外国人記者クラブ、証券取引監視委員会など講演多数。著書、「ソニーが挑んだ復讐戦」。

ソニー創業者、井深大、盛田昭夫、大賀典雄の直属幹部として永年経営に参加し、社長賞4回の実績あり。現在、多くの企業に対し、経営全般、グローバリゼーション、事業企画などのテーマでアドバイスを行い、また、役員、幹部社員の研修講演なども行っている。


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