ビッグデータ活用とコミュニケーション進化が軸となる「未来社会」の展望NTT DATA Innovation Conference 2012レポート(2/2 ページ)

» 2012年03月02日 08時00分 公開
[大西高弘(ノーバジェット),ITmedia]
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暗黙知を形式知に変換するビッグデータ活用の未来

 センサーデータから得られるビッグデータの活用例としては、橋梁モニタリングシステム「BRIMOS」がある。橋梁に設置されたセンサーから得られる情報をリアルタイムで集積、処理して管理センターに送信するというシステムだ。

 橋梁の溶接部分にかかる圧力や橋梁各部の振動データなどがリアルタイムでセンターに送られ、異常の察知をこれまで以上に早める「BRIMOS」は、2012年2月12日に開通予定の東京ゲートブリッジにも導入されている。

 「『BRIMOS』で集積され処理されるデータは、長年蓄積されればされるほど、高度な知見を生み出すものとなる。ベテランの監視員、管理者が暗黙知として持っている橋梁に関する知見と合わせれば、経験の浅い人にも活用できる形式知となる」(岩本氏)

 長い経験を持っている監視員、管理者は天候や音、体で感じる振動などによって橋梁の状態をある程度把握できる。ビッグデータから作成された振動、圧力などのデータの時系列での変化をベテランの知識と照らし合わせれば、データから何を読み取ればいいのかが分かるようになるわけだ。ビッグデータを暗黙知から形式知に変換することに利用するということは、誰でも利用できる新しい知識やノウハウを生み出すことにつながる。

 「『BRIMOS』は中国やベトナムなどの各地で導入が検討され、実証実験が実施されている。日本では首都高速道路、中央環状線などでも設置されており、センサーデータから得られるビッグデータの利用はこれからもさまざまなケースに発展していくはずである」(岩本氏)

未来を創造する主役、ITがいま求められていること

 ITによるコミュニケーションの高度化という面では、NTTデータはさまざまな取組みを行っている。特に医療分野で広く研究されている。センサーが付いたブレスレットなどから、個々人の体調に関するデータを集積して医療活動に役立てる技術や、脳波などから人間の意思を把握するといったものだ。

 「電子カルテを医師が患者と話しながら自動的に入力する仕組みなども研究されている。医療は個々の患者の状況に対応する必要があり、まさに、マスではなく一人ひとりのニーズに応えるためのIT技術というわけだ」(岩本氏)

 未来に必要となる技術を着々と研究し、実用化を進めているNTT DATAだが、岩本氏はもう1つ、大切なものを挙げた。それは、フィードバック回路である。ITは思わぬ事態を引き起こすことがある。証券業界などで行われているアルゴリズム取引などで危険視され、実際にも発生したこともある売買の暴走などもその一例だ。猛烈なスピードで売買が行われると、時として何かをきっかけに突然の暴落、暴騰が起こる。金融システム自体がクラッシュするまでには至ったことはないが、ITは社会に対してそうした危険を生む存在になる可能性もはらんでいる。

 「ITは明るい未来社会を創造する主役。しかし、社会に危険を及ぼす可能性があることも忘れてはならない。その一例として標的型攻撃などもあり、そのためフィードバック回路を常に意識して活用する必要がある。ちょうど自然界でいえば植物の光合成と同じで、植物はデンプンが蓄積される量が多くなると酵素の機能を低下させ、デンプンの内蔵量を調節する。こうした機能は、社会の中が発展していく中でますます重要になる」(岩本氏)

 ITによって便利になり、効率的にサービスを受けられる社会。それは、「NTTデータが描く未来」であると同時に、復活を目指す日本の多くの産業が描く未来でもある。「その未来を実現するにはわれわれの幸福とは何か、未来をどう生きるべきかを少しずつ考える必要があるのでないか」と語り、岩本氏は講演を締めくくった。

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