睡眠コーチ角谷氏が教える、早起きや気力に頼らない「仕組み」作り。光や換気で脳をすっきり目覚めさせ、好きなことで幸福感を満たす。無理なく朝の余白を楽しみ、仕事の成果と人生の充実を両立させる最高のルーティン。
2025年3月18日、ITmedia エグゼクティブ勉強会(オンライン開催)に、スリープコーチの角谷リョウ氏が登壇した。NTTドコモ、サイバーエージェント、損保ジャパンなど180社以上、累計16万人以上のビジネスパーソンの睡眠改善をサポートしてきた上級睡眠健康指導士であり、Lifree株式会社の共同創業者でもある。著書『一日の休息を最高の成果に変える睡眠戦略』(PHP研究所)でも知られる角谷氏が本勉強会で打ち出したメッセージは、「早起きしなくていい。頑張らなくていい。仕組みでカバーする」というものだ。目覚めの質を科学で底上げし、その余白で仕事の成果と人生の幸福度を同時に引き上げる──目覚め・幸福・仕事・心身の4領域にわたる「朝ルーティン28選」が、実証データとともに展開された。
多くのビジネスパーソンが感じる「朝のモヤ」は、気力の問題ではなく生理的な設計の問題だ──と角谷氏は切り出した。起床直後の光環境、口腔内の細菌数、室内のCO2濃度。こうした要素を意図的にコントロールすることで、脳と体の覚醒を前倒しできるという。
まず提示されたのが、朝の覚醒を科学的に底上げする7つの習慣だ。
第一は「白系の光をマックスで浴びること」。冬の日の出は6時50分ごろで、太陽光を待つのは非現実的だ。光目覚ましや照明を白系・高光量に設定するだけで、太陽光に近い覚醒効果が得られる。金沢大学の研究でも効果が確認されており、「子供の朝の機嫌が良くなった」という事例も報告されている。
続いて提唱されたのが「起き抜けの歯磨きとうがい」だ。睡眠中は口腔内細菌が急増した状態で食事を始めることになる。寝る前の歯磨きに加え、起床直後にもう一度行うことが「今やリテラシーの高い人には常識」として広まりつつあると角谷氏は語る。
3番目が「白湯を飲むこと」。腸内細菌の改善や体温上昇に加え、「善玉菌が増える」というデータも存在する。コスト面でも「歯磨き粉代ぐらいしかかからない」最高コスパ習慣として、角谷氏は強く勧める。
「朝シャワー」も見逃せない。アイスシャワーはストレス耐性の向上・モチベーション向上・免疫力強化のエビデンスがあるとされるが、体が冷えている人には向かない。「熱いシャワーの後に締めとして冷水を浴びるだけでも効果がある」というのが角谷氏の代替案だ。
さらに「プレ朝食」として、空腹の胃腸に最初から重いものを与えない工夫が提案された。断食明けにいきなりカレーや牛丼を食べることは胃腸への過負荷であり、バナナやみかんといった消化酵素を含むフルーツがベストという。ここで強く否定されたのが「100%オレンジジュース」だ。「食物繊維が除去された瞬間に血糖値スパイクの原因になる。健康のために飲んでいるなら今すぐやめた方がいい」と角谷氏は明言する。
「コーヒーは起床30分以降に」というタイミング管理も重要なポイントだ。かつてWHOがコーヒーに発がん性の可能性を示したが、その後の精緻な研究で否定されており、国立がん研究センターのデータでは1日3杯以内で心疾患リスクが約0.64倍に低下するとされる。ただし起床直後のコーヒーは自律的な覚醒ホルモンの分泌を妨げる。「自力で目覚める能力を維持しつつ、30分後に追加加速する」──この使い方が合理的だと角谷氏はみる。
最後に盲点として挙げられたのが「部屋のCO2濃度と換気」だ。クーラーや空気清浄機は温度や粒子をコントロールするが、CO2を減らす機能は持たない。1人で就寝しても2,500ppmに達することがあり、家族と同室ならば3,000〜4,000ppmを超えるケースも珍しくない。1,500ppmを超えると頭痛や倦怠感が生じると言われており、「朝だるい」という訴えの大半がこれで説明できるという。CO2センサーはスマートフォン連動型が6,000円程度から入手可能で、「一度測れば何時間おきに換気すればいいかが分かり、ずっと監視する必要もない」というのが角谷氏の見立てだ。
次のパートでは、幸福ホルモン・セロトニンを朝のうちに分泌させる「幸福充電系7選」が展開された。
日本人の半数が「リベンジ夜更かし」をしているとするデータがある。心身ともに疲弊した状態で「自分の時間」を夜に確保しようとしても、ショート動画を眺めるのが精一杯になる。この悪循環を断ち切るには、幸福の回路を朝側に移植することが有効だ。
アラームで起きることも問題として取り上げられた。ピッという音で強制的に意識を引き上げられた瞬間、ストレス反応が走りセロトニン分泌が阻害される。光目覚ましで徐々に光量を上げ、そこに自然音(鳥の鳴き声、波音など)を組み合わせると「目を開けた瞬間すでにセロトニンが出ている感覚になる」という。
「ベッドメイキング」が幸福習慣として挙がることを意外に感じた参加者も多かったようだが、アメリカの幸福度調査では朝のベッドメイキングがナンバーワン習慣に位置づけられるほど、自己効力感への影響は大きい。「整えたベッドを自分から崩して横になる人はほぼいない。二度寝防止効果も兼ねる」という実用的な側面も見逃せない。
「朝食を作る」という習慣は、特に男性への推薦として紹介された。卵と味噌汁程度の簡単な調理でも、家族から喜ばれることで主観的幸福感が高まる事例が数多く報告されているとのことだ。朝からのNetflixやYouTube鑑賞も、「夜にするより朝にシフトした方がセロトニンを上手に使える」として容認された。
最も推薦度が高いのが「朝に自分の趣味をする」習慣だ。「朝5時から6時半まで好きなことをすれば、その後の仕事はおまけのようなもの。人生が180度変わったという人が多い」と角谷氏は語る。
仕事の成果向上系としていくつかが紹介されたが、特にユニークだったのが「モンスターを先に倒す」というメッセージだ。海外のエグゼクティブの間でも広く語られるこのアプローチは、最も困難なタスクを先送りせず朝一番に処理するというものだ。「日中に雑事が積み重なるとモンスターはどんどん大きくなる。朝の静けさの中でしか倒せない」──角谷氏自身も、この習慣を欠かさないという。
「AI活用による朝の情報収集」も実践例として取り上げられた。自分が必要とする業界情報を3つのテーマに絞り、AIエージェント(ChatGPTやGeminiなど)に前夜からリサーチを依頼しておくことで、朝には精選されたレポートが手元に届く。「自分でいろいろ見始めると余計なものまで読んでしまう。必要な情報をAIに絞ってもらう使い方が、できる人はやっている」というのが角谷氏の見方だ。
「朝読書」については、ショート動画との対比で語られた。「分かりやすいコンテンツは分かった気になるだけで記憶に定着しない。本の難解さ、立ち止まって咀嚼する行為、その抵抗感こそが学習に不可欠だ」──朝に能動的に本と向き合うことで、インプットの質が大きく変わるという提起だった。
最後の心身向上系活動の薦めでは、筋トレ・瞑想・ジム・朝散歩などが取り上げられた。「夜に疲れ果てた状態で運動や瞑想をするのは難しい。朝のうちに仕組みとして組み込んでしまう」という発想は、他のパートと共通する視点だ。
「5分間瞑想」は継続率の高さが特徴で、アプリやSpotifyを使ってその日の気分に合わせたテーマを選ぶことで「やる気を出したいとき」「心を穏やかにしたいとき」と使い分けられる。5分という短さが習慣化のハードルを下げるのだろう。
「HIIT(高強度インターバルトレーニング)」も海外エグゼクティブの朝習慣として紹介された。認知症予防・筋力・持久力・脳活性化に効果があるとされ、「朝一番に脳を覚醒させる手段として理にかなっている」と角谷氏はみる。
質疑応答では睡眠計測ツールへの質問が集まった。睡眠の質は本来「脳波」で計測するのが正確だが、指輪型計測器(オーラリングなど)はPSG検査との相関が約70%、時計型計測器(アップルウォッチなど)が約60%に達するとされる。一方、スマートフォンによる計測は「加速度センサーとマイクだけで体の動きを間接的に推測するに過ぎない」として信頼性に限界があり、「睡眠学会もスマートウォッチのデータは学会資料として使用可とするが、スマホは適用外」というのが現状の見解だ。
「8時間以上の睡眠が死亡リスクを高める」という統計については、110万人規模と10万人規模のデータを引きながら、「長時間睡眠になるほど眠りが浅くなり睡眠圧が低下するメカニズムがある」「厚生労働省も8時間以上の就寝を避けるよう明示している」という2点を根拠として示した。
朝の習慣と睡眠の最適化は、気力や意志力ではなく「知識と仕組み」の問題だ──と角谷氏は繰り返し強調する。「同じ目覚まし時刻のまま朝時間を作れる」「早起きしなくていい」というメッセージは、多忙なビジネスパーソンにとって実践のハードルを大きく下げるものとなった。
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