日本企業は欧米などと比較すると、グローバル化に遅れをとっているのが実情だ。コンピュータの黎明期から事業に携わっていたNEC元副社長の川村敏郎氏は、その理由を日本企業の“異質さ”にあると語気を強める。
日本企業にとって対応が急務とされる課題の1つに、事業のグローバル化がある。事実、インターネットの登場以来、国境の垣根を越えた経済活動が加速する中にあって、残念ながら日本企業は、そのスピードで欧米企業に遅れをとっているのが実情だ。日本企業のグローバル化の成功例が少ないことも、そのことを裏付ける。
日本企業がグローバル化を円滑に進められた理由とは何か。黎明期からNECのコンピュータ事業に携わり、SI事業の責任者として副社長まで務めた川村敏郎氏は、3月15日に開催された経営層向けセミナー「第23回 ITmedia エグゼクティブセミナー」の基調講演の冒頭で次のように解説した。
「グローバル化を語る上で“フラット化する世界”というキーワードがしばしば用いられる。これが真に意味することは、グローバル化を進める上で経営のあり方を抜本的に見直さなくてはならないということである。しかし、そのことを理解している経営者は実のところ少ないと言わざるを得ない。そして、このことが日本企業のグローバル化の足かせになっているのだ」(川村氏)
現在、日本が置かれた状況は極めて厳しい。デフレや不況が重なったことで経済が長期にわたって停滞しており、若年層を中心に失業者も急増している。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と呼ばれ、世界を席巻した日本企業の国際競争力も“失われた20年”の中で大幅に低下した。もっとも、世界情勢も決して安定していたわけではないと川村氏。実際に、世界に目を転じれば、BRICsやASEAN諸国などの新興国が台頭する一方で、EU諸国が経済危機に直面していることは記憶に新しい。また、基軸通貨であるドルの弱体化に伴い、米国一国集中から多極化時代へ突入しつつある。
「世界情勢は混迷をさらに増していると言っていい。こうした中で売れるものをどう作るのかがグローバル化における最大の鍵だ。その実現に向けた基本的なアプローチこそ、これから成長が期待される事業を、伸びる市場で展開することにほかならない」(川村氏)
グローバル化の時代においては過去にとらわれることなく、グローバルな視点で事業拠点となる国を見極めるべきというのが川村氏の考え。日本が不適当と判断されれば、より適した場所に拠点を移すべきであり、組織や人材を含めて現地化を推し進める。つまり、グローバル化とは、「競争力のある新たな事業を創造するための国際化」(川村氏)であるというわけだ。
川村氏が、日本企業のグローバル化がうまく機能しない理由の1つに挙げるのが、その手法の“異質さ”だ。グローバリゼーションは原則的にすべての分野でのオープン化が基本であり、その特徴として、水平分業化の進展や、新規参入や統廃合の加速に伴う事業の効率化などを挙げることができる。
だが、多くの日本企業はこれまで、系列を中心とする日本人中心の垂直統合型事業モデルを、組織制度や製品、経験などを含めてそのまま海外へ移植する手法をグローバル化において採用してきた。とりわけ問題と言えるのが日本企業の閉鎖性だ。
「誰でも参加できる多様性こそ、オープン化の最大のメリット。ひいては、あらゆる社員の間で課題の共有や解決に向けた議論が促され、ひいては競争力の強化を期待できる。だが、日本企業には肩書で仕事をしがちな面が強く残されている。そのため、このままグローバル化を進めても、海外勢と伍して戦うことは難しい。だからこそ、あらゆる行動規範をオープンにした上で、グローバル化に取り組むことが急務なのだ」(川村氏)
川村氏が理想像として掲げる経営手法が、インターネット時代の行動規範を経営指針と融合させた、「ソーシャルネットワーク化された経営」と呼ぶものである。具体的には、自らの行動規範を広く明らかにし、ネットワークを活用して他社との連携を加速させ、協業を加速させつつ新事業の拡大に注力するというものである。
従来、自前主義での事業展開が利益の極大化につながると考えられてきた。だが、モノのみならずサービスのモジュール化もここまで進んだことで、協業先からそれらを調達した方が事業をいち早く立ち上げられ、競争優位を築く上で優位なケースも現実的に多くなっている。
「iPadの成功も、まさにこのビジネスモデルによるもの。ファブレスで製造拠点を持たないメーカーも、もはやグローバルでは珍しくない。製造ラインを持たなければ経営できないという旧来の発想と自前主義の考え方を捨て去らなければ、グローバル競争には到底、勝ち抜くことはできない」(川村氏)
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授