もう一つの重要なポイントは、急いで改革するべき事柄と時間をかけてじっくり取り組むべき事柄を、それぞれきちんと理解して、柔軟性を持って物事にあたれるリーダーを選ぶこと。それが、外から人を抜擢する際の成功要因ではないでしょうか。
外から採用された人には社内外からさまざまなプレッシャーが掛かります。
特に外部の採用を頻繁に行っていない組織においては、周りの人たちからは「お手並み拝見」という状況下で言動を見られがちです。急いで成果を出そうと思うあまり、短絡的に一律経費削減や給与カットなどを行ってしまった場合、短期的にはコスト削減ができたとしても中長期的に考えると必ずしも組織の成長にはつながらないこともあります。
「モノ」……例えばオフィスの引越しや不動産物件などの売却に関しては、事務的に推し進めても問題は生じにくいですが、「ヒト」……例えば人事上の抜擢や降格、社員のリストラなどに関しては非常にセンシティブなことですので、きちんと考え抜いた上で決断をし、周囲の内諾を得て事を進める必要があります。
また、組織にはさまざまな利害関係を持つ人たちが混在しています。旧体制と新体制、管理部門と営業部門、経営層と従業員、株主と経営者と社員などそれぞれの立場に応じて考えや思惑は異なります。特に新しい環境に変えていこうとする場合には抵抗勢力も当然出てきますが、そういう人たちの気持ちを受け止め配慮しつつも、新しい流れを徐々に推し進めて元に戻すことはせず、やるべき時期が来たときにきっちりやり抜く事が重要です。
政治的な動きから、変革を元に戻そうとする勢力が出てくる場合もありますが、時間をかけて彼らをも受け止める度量の大きさをみせつつ改革を進める強さと忍耐力、そしてしたたかさも必要でしょう。
人間の「高貴さ」と「弱さ」の両面を理解できるリーダーが、本当の意味での強いリーダーだと感じます。
最も受け入れられないリーダーの言動の一つは、常に前の会社の話を持ち出し「前の会社ではこうだった」と比較してしまうことでしょう。今までの経験や実績を評価されて外から採用となったので、つい前の会社と比べてしまうのかもしれませんが、それで周りからの賛同は得られるでしょうか。
新しい環境に飛び込む際のスタンスは常に「ゼロ発想」が大切です。他者の言葉やさまざまな情報、噂話に惑わされずニュートラルな独自の視点でその会社の良い所、改善すべき点を客観的に見極めた上で、今まで培ってきた経験やスキルをその会社に合うように適合していくことだと思います。
最初から頭ごなしに前の会社のやり方を押し付ける限り信用を得られませんし、「だったら、前の会社に戻ったらよいのでは?」と言われかねない状況となります。
いずれにしても外部から採用されたリーダーには、心身ともに健全さと強さが必要とされます。時に孤立無援だと感じることも多々あるかと思いますが、だからこそ人を信じることが試される時期だと思います。
ちょうど先日、ベストセラー作家であるジョン・キム氏の新刊「真夜中の幸福論」(ディスカバー21刊)を読んでいる時に、下記の文章と出会えました。
ぼくが人と親しくなるとき、この人と親しくしていくかどうかの最終的な基準軸というのは何か? というのを掘り下げてみると、
「その人に裏切られても、自分はその人を憎まない」
という境地のようなものがあります。
もしその人に裏切られたら、その後の行動の選択は変わるだろうし、疎遠にもなるだろう。
だからと言って、その人を憎んだりはしない。
つまり、ぼくにとっては、「自分がその人を信じることができた」ということ自体が
非常に重要なのです。
その人が、信じる力を自分に与えてくれたという事実が重要なのです。
自分の中に「信じる力」が生まれたこと自体がギフトなのです。
だから、裏切られても「悔しい」といった感情は一切沸かない。
とても心にしみわたる深い言葉だと感じます。それとともに、わたし自身がまだ若くて自分に対する自信もなかった時代、一つ心に決めていたことがあります。
「悪意を持っている人の言葉に傷つかない」
人はさまざまな感情を持ってその時々で言葉を発していますが、その人が好意をもって発言しているのか、あるいは悪意を持って発言しているのかということを人は瞬間的に分かります。
意図的に悪意を持って人を傷つけようとしている人の言葉に、わざわざ傷つく必要はないなとふと思い、上記のことを心に決めた覚えがあります。わたし自身まだまだタフではなく、人からどう思われているのかを気にしていたからこそ、この言葉が頭に浮かんできたのだと思います。もちろん、心を閉ざすことではなく、意識的に自分の内側に芯となるものを作るためです。
人は成熟すればこういう感情も超越していきますが、まだ人の言葉に振り回されていることを自覚している場合には、自分に向けて勇気を持てる自分なりの言葉を探してみてもよいのではないでしょうか?
次回は、今後のヘッドハンターのあるべき姿を話していきたいと思います。
石元聖子
大学卒業後、専門商社7年、外資系銀行2年、中堅アパレル会社2年とそれぞれの業界で貿易事務の仕事に従事した後、「人」をキーワードとし、独自のスタイルで仕事ができないかと模索していているときにヘッドハンターという仕事があることを知り、この業界に入る。
スタントチェイス・インターナショナル(業界内でトップ10に入るグループ)東京にてエグゼクティブ・パートナー(株主でもある共同経営者)として10年間勤めた後 2005年にラストラールを創設、代表取締役社長となり現在に至る。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授