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» 2012年08月14日 08時00分 公開

ヘッドハンターから見たリアルリーダーとは?:今という時代にヘッドハンターが果たす役割 (2/2)

[石元聖子(ラストラール),ITmedia]
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 真のリーダーを探し出す有効な方法があります。優秀な人の周りには必ず優秀な人がいます。その中でもリーダーとして尊敬され慕われている人たちの信頼をいかにして得られるかが大事なポイントになります。例えばキャリアにおいて迷った時に転職の相談を求められるような存在になる。自分が関わっていない案件でも、相談された場合に転職のプロとして適切な意見を述べることができる。こうしてそれを積み重ねていくことによって、信頼関係の輪が自然と広がり、人の輪も広がっていきます。これはバーチャルなネットの世界だけでは難しいのではないでしょうか。

 また、人間が熟成するためには時間も必要なため、いわゆるヘッドファーマーとして、若い頃からその資質を見抜いて中長期的に見守ることも大事だと思います。そして機が熟した時に、彼らが意欲を掻き立てられるようなチャレンジしがいのある魅力的なポジションを提示することで、新たなチャレンジにつながります。彼らはきちんと自分のキャリアを考えていますので、単に収入が増えるというだけの理由で転職を考えることはありません。今までの経験やスキルが生かせ、価値観に合い、世の中の役に立てるようなポジションでない限りチャレンジすることもありません。彼らが決断し、覚悟を決めてやり抜いたときには本当に素晴らしい成果が出ています。

 ここで「世の中に出てきていない」リーダー層の人にぜひ伝えたいことがあります。自分の所属している組織を愛し、そのメンバーたちを大切に思うことはとても大事なことですが、「井の中の蛙」にならずに冷静に自分の会社が置かれている状況を分析することも必要です。視野を広く持ち、客観的に時代の流れを読む力はリーダーに求められる資質だといえます。意識的に外部の人たち、異業種の人たちと交流することも重要なのではないでしょうか。結局人は人によって刺激を受け、成長していくものだと感じます。

 転職の話そのものが現状を分析する一つのきっかけとなることもあります。今まで組織の中から物事を見ていた意識に外からの視点も加わることによって、自分自身の位置づけや会社を取り巻く環境の見え方も変わってきます。もちろん 安易な転職を勧めるつもりはありません。リーダーには自分のため、会社のためという発想だけではなく、より大きな枠で物事を捉え、より良き流れに向かって世の中を動かしていってほしいと願っています。

 そのためにはありとあらゆるチャンスに気づき、それをつかみ取り、そして必要に応じてノーという勇気も必要だと感じます。今の時代は、たとえ競合他社であったとしてもコラボレーションも可能な時代です。人との出会いによって自分や会社の運命を大きく変えていくこともあるでしょう。

企業は何を求めているのか?

 次は、ヘッドハンターとして企業にどういう付加価値をつけていく必要があるのかについて話します。

 今の時代は、かつての1970年代、80年代のように、右肩上がりで売り上げも利益も毎年どんどん上がっていく時代ではありません。従ってコスト削減の意識は強く、必要でないと思われる費用はどんどん削減されていく傾向にあります。

 外資系企業も日本支社である限り市場は日本に限定されていますので、状況は同じだと言えます。単に候補者と企業をつなぐだけのエージェントに対して、企業は高いリクルーティング費用を支払う必要性は感じないでしょう。そういう状況の中で、企業が費用をかけてもよいと思えるような付加価値の高いサービスとはどういうものでしょうか?

 まずわたしが考える最も重要なポイントは、その企業が求めている候補者の人物像を企業が考える以上に本気で掘り下げ、欲しい人材と採用できる人材とのギャップを極力無くし、その企業の現在だけでなく未来を見据えて活躍できる人物を採用することだと思っています。そのためには、企業とコンセンサスを取り、現実的な落としどころを見出し、そのポジションのセールスポイントや組織的位置づけなども聞き出した上でプロジェクトをスタートする必要があります。人事担当者だけでなく予算や人事権を持つ部門の方、いわゆる決定権者の協力も不可欠です。

 その後、候補者が出てきた時点でも学歴や経歴書だけでなく、その人が企業カルチャーや、企業が今後向かうべき未来の方向性に合っている人物なのかといった多角的な視点で候補者を見極める必要があります。そして、本当に必要とされる人物なら、誠意をもって企業の熱意を伝え一緒に口説いていくことも重要なポイントだと思っています。候補者にそのポジションの可能性をきちんと伝えきることが転職の成功率を高めます。転職における「成功」とは、単に転職が決まった瞬間だけではなく、2年後3年後に採用された人からも企業からも喜んでもらえることを意味します。

 また、今の時代は「優秀さ」の定義そのものも変わってきており、組織のステージや規模、業界の特性などによって求められる「優秀さ」も違ってきます。その企業にとって本当に必要な「優秀さ」を持った人を探してくることも差別化につながる要素と言えるのではないでしょうか。

 企業サイドに理解してほしいことがあります。外部からの抜擢はリスクが伴います。企業としてリスクを取って取り組んでいることは十分承知していますが、候補者にとっても大きなリスクでありチャレンジなのです。ですので、あまり短期的な発想ではなく、中長期的な視点で彼らを温かく見守り、うまくいかなかった場合のセーフティネットも必要だと思います。日本は敗者復活戦を提供しにくい環境のように感じますが、それでは勇気をもってチャレンジしようとする人が限られてしまいます。

 今の時代に必要なのは、成功体験よりも失敗経験を持っている人です。苦い失敗を経験し、それを反省し、冷静に今だったらどうするのかを常にシミュレーションしている人は、同じ失敗は繰り返しません。常に進化しています。実際に経験して初めて分かることもあります。そして、その経験をバネとして次に繋げられる人こそ、本物の百戦錬磨のビジネスプロフェッショナルだと思います。一度は失敗したとしてもチャレンジできる場があることが望ましいです。

 優秀な候補者と、その候補者を活用できる企業とを結びつけることにより、組織全体が大きく活性化し、一人一人が大切な存在として尊ばれる気持ちの良い世の中になります。

 わたし自身は何も特別なことができる人間ではありませんが、人と人との相性を見ることはできると自負しています。人と人との組み合わせによって足し算も引き算も掛け算にもなるのを今まで見てきました。また、そこには必ず熱き志を持ったリーダーがいます。まっとうで志高く人の心に火を付けられる人が増え、その周りで、「自家発電できる人たち」が増えていけばと考えています。

著者プロフィール

石元聖子

大学卒業後、専門商社7年、外資系銀行2年、中堅アパレル会社2年とそれぞれの業界で貿易事務の仕事に従事した後、「人」をキーワードとし、独自のスタイルで仕事ができないかと模索していているときにヘッドハンターという仕事があることを知り、この業界に入る。

スタントチェイス・インターナショナル(業界内でトップ10に入るグループ)東京にてエグゼクティブ・パートナー(株主でもある共同経営者)として10年間勤めた後 2005年にラストラールを創設、代表取締役社長となり現在に至る。


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