自分の業務を遂行するために、どのように職務分担が行われるべきか討論するとよい。どのような責務があるのか認識できるだろう。
マニュアルに慣れていない社員でも、受け入れる側の職場では、新しく配属された新入社員には何かを教えなくてはならない。どんなに擦れた新入社員でも、自分を採用してくれた企業にそれなりの関心をもち、1日でも早く仕事をしたいと思っている。また、受け入れた企業側にも、採用した新人たちを1日でも早く戦力にしたいと考えている。これがマニュアルのいう共同体感覚の基礎である。マニュアルにとってもっとも恐ろしい表裏背反が少ない。双方それなりに真剣である。つまり役立つマニュアルが作られる可能性があることになる。
新入社員には会社の歴史や社是、社訓といった原点を教えることも大切だが、それと同時に実務をきちんと覚えさせなくてはならない。これらを日常的な業務の中で大過なく行えるよう短時日で教えこむというのは決して簡単なことではない。どうしても各部課の間にでこぼこのない教育が必要である。
中小企業の中には、マニュアルを作るまでの仕事の手順化が進んでいないケースがある。「マニュアル化などこれからの話だ」という経営者は沢山いる。マニュアルなしでどのように新入社員を教育するのだろうか。実地教育だと答える彼らの実地教育とは何か。放りっぱなしの野育て方式であるのか。それとも、海兵隊の鬼軍曹のようなベテラン指導員でもいるのだろうか。皆目検討がつかない。
会社の外見は立派な鉄筋ビルだが、社員の教育は先代の社長の頃と何も変わっていない企業は沢山ある。この原因は何だろうか。答えは1つである。 経営は無数の行動の蓄積であるという概念を知らないということである。これは頭の中だけで、理解されており、経営の実践の中に生かされていない。
新入社員は、まず何らかの職務を遂行させられ、職務がいくつか集合して業務となる。この業務には必ず社の方針に基づく計画がくっついている。計画を達成しなくてはならない。その責任を管理者はもっている。歯止めが必要である。そのためにもマニュアルがいる。
業務をきちんと遂行する責任は半端ではない。これは社の基本的な経営方針からでてくる。社の方針は社是という倫理規定の制約を受けている。こうした沢山の制約を背負うのが業務である。この業務の構成単位となっている職務を形成するものは行動即ち一定の手順である。どこの企業でも、新入社員にはこの手順を教育し、記憶させねばならない。
手順を指導するということは、職務のプライオリティの選択がいる。職務の重要性の順位は業務の社方針の実現期待度の大小によって決定される。つまり、社是や経営の基本方針と無関係に社員教育が行われるはずがない。意識的か無意識的かはあまり重要ではない。
新入社員の教育用のマニュアルは次の順序で作れば効果的である。
1、業務を構成している職務の構成
2、担当する職務の作業手順
3、業務の経営内の位置づけ
4、以上の総括としての作業遂行上の注意事項
これがスラスラと作れない社員は指導者としての資格がないと判断すべきである。この4項目のどれから教育を始めるかによってその企業の理念は分かる。管理者と名のつくものは、いつでもこの4つを頭の中で考えていなければならない。新入社員受け入れマニュアルを作成する場合にまずこの業務がどの様な職務から構成されているのかを徹底的に業務担当者と論議し選定しなくてはならない。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授