IT戦略における3本柱には、デマンドサイドの視点、サプライサイドの視点、コントロールサイドの視点があることを、説明しましたが、実は、ここに含まれないが、IT戦略には必ず含めておかなければならない重要な視点があります。それは「リスクと課題」です。
IT リスクのガバナンスやマネジメント、そして、IT セキュリティについて記載するセクションではありません。これらのテーマは、コントロールサイドの視点の中にある「ガバナンス」のセクションでカバーします。この「リスクと課題」のセクションは、IT 戦略書の本文に記載されたIT 戦略に起因するリスクや課題について記載する部分であり、企業の有価証券報告書や年次報告書における「リスクと課題」のセクションに類似しています。
例えば、IT 戦略でIT マネジメントとIT 要員の高度な集中化を提言する場合、事業部の個別ニーズに対するIT の即応性の欠如が潜在的なリスクとなります。このリスクを軽減するには、強力なガバナンス力やリレーションシップ・マネジメント力を活用します。この「リスクと課題」のセクションでは、次に留意します。
⇒IT戦略の視点から、全社レベルの上位リスクを特定する(最大8 項目)。
⇒各リスクの深刻度(すなわち、リスクの発生確率や影響度)を判断し、これを軽減するためのアプローチ案を特定する。
⇒各リスクのビジネスへのインパクトについて十分に明らかにする。
リスクは事後管理として対処するのではなく、IT 戦略の必須項目として盛り込むことが推奨されます。
日本企業の多くは、4月〜翌3月を会計年度としています。そのため、来年度予算を含む年次計画を、年末、年始に策定し始め、2月中頃から末までには確定させるという業務サイクルではないでしょうか。また、中期計画として、3〜5年の間に、何をどのくらいの予算で実行していくのかを記述し、役員会などで報告することも、秋頃(10〜12月頃)に実施している企業も多いと思います。
ガートナーでは、年次計画ではより具体的に戦術レベルでの計画を記述すべきであるといいますが、中期計画はその期間を延長するだけの記述に留まらないようにアドバイスします。つまり、中期計画の内容をここで説明したIT戦略に置き換えると、IT部門の位置付け(存在意義)や、ビジネスに対する貢献が、明確になります。
中期計画は、役員会などで、報告する企業が多いので、ここで、上述のようなシナリオに従って、エレベーターピッチで報告することにより、ITの社内での価値は、断然向上すると考えられます。
われわれのところに寄せられる最も多い質問の一つに「同業他社のIT予算はいくらですか?」というものがあります。この質問が多い背景の一つに、中期計画の時にIT予算とその年次推移を役員に向けて一生懸命に報告するためだということが分かっています。エグゼクティブからは「で、そのIT予算は、高いの安いの? 他社と比べてどうなの?」と聞かれて窮した結果、われわれへの問い合わせになるのです。
同業他社と、同じビジネス戦略を取っていれば、IT予算は少ない方がいいのかもしれませんが、顧客には、他社ではなく自社を選択してもらうように、他社とは違う独自性を打ち出しているはずです。いや、打ち出さなければ、自社が市場で勝ち残ることは難しくなります。ITの中期計画は、中期的にいくら使うかにフォーカスするのではなく、ビジネスに勝利するために、ITがどのように貢献できるかを中心に議論を進めるべきだと皆さんに訴えたいのです。
「当社における中期計画の報告フォーマットには、IT支出に関するものしかありません。」という意見をもらったこともあります。では、そのフォーマットを見直すように、事務局に働きかけましょう。ITが社内において、いつまでも受け身になっていては、IT貢献を論ずることはできません。今一度、自社のITの位置付けを点検し、然るべき行動を起こしてみてはいかがでしょうか。次回は、3本柱のうち、コントロールサイドについて、より深く説明します。
2006年にガートナー ジャパン入社。CIO向けのメンバーシップ事業「エグゼクティブ・プログラム(EXP)」において企業のCIO向けアドバイザーを務め、EXPメンバーに向けて幅広い知見・洞察を提供している。近年は、CIO/ITエグゼクティブへの経営トップからの期待がビジネス成長そのものに向けられるなか、イノベーション領域のリサーチを中心に海外の情報を日本に配信するだけでなく、日本の情報をグローバルのCIOに向けて発信している。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
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明治学院大学 経済学部准教授