利益を追い求めていた時に伸びがおもわしくなく、顧客を創造することこそが、事業の真の目的であることを理解したとたんに利益が倍増した。その背景には何が。
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本社を旭川に置く北海道健誠社は、クリーニング業を営んでいます。同社専務の瀧野雅一氏は、数年前筆者と出逢ったとき「事業の目的は利益をあげることである」と明言していました。筆者は、ドラッカー教授の言葉を紹介し、その考え方をあらためた方がいい旨を伝えましたが、かみ合わない議論は1時間以上に及びました。
もう再び会うことはないだろうなと思いながら翌月、筆者の主催するドラッカー教授の著作を読む会、「読書会」で再会しました。同氏はそれ以後、熱心にドラッカー教授の著作を読み、即実践に移すことを繰り返しました。そして、およそ1年を経過した頃、会社の利益が倍増した旨の報告を受けました。
「事業の目的は顧客の創造である」「利益は組織存続の条件である」。筆者が伝えた言葉は、この2つだけです。同社は、創業から20年を経過し、事業は増収増益。しかし売上の伸びに比して、利益の伸び率が低いという悩みを持っていました。しかし上記の言葉に出合った後、利益は倍増したのです。同氏は、利益はさておき、顧客の創造の意味を常に考え、具体策を一つずつ実践に移しました。
実践例をご紹介しましょう。ホテルリネン業務の営業強化のため、同社の会員に対して近郊の温泉街のホテルとタイアップして閑散期に日帰り入浴ツアーを行いました。
ホテルは無料入浴の提供、同社は自社の従業員送迎用のバスを活用しました。またクリーニング会員に対してツアーの告知と募集を行い、出発と帰着は自社のクリーニング取次店としました。既にあるものを組み合わせて顧客に日帰りツアーを無料で提供したのです。
その後同社には、親子でゆっくり会話をする機会ができたなど続々と感謝の言葉が寄せられました。また取次店のスタッフにお土産を買ってきてくれるなど顧客との距離も急速に近づくなど思わぬ効果が次々に生じました。
またホテル館内での飲食やお土産の購買、その後の予約獲得など収益貢献を生み出し、顧客であるホテルから感謝されました。顧客の顧客を生み出すことが、自社の事業に対して抜群の効果があることはいうまでもありません。
こんな事例もあります。同社には、400キロ離れた都市からクリーニングの依頼があります。名古屋の施設から東京の事業者に洗濯物が送られてくるようなものです。なぜそんなことが起こるのか? 同社は、高齢者施設向けのリネンサービスに力を入れています。高齢者施設の現場の現実に常に目を向けています。そこで一つの現実を発見しました。従来施設の入居者の衣類に名札が縫い込まれている。入居者にとってそれはいいことなのか? 真の欲求は?
同社が始めたサービスは、「当社のクリーニングは名札不要です」。このサービスが支持され、今や営業テリトリー以外からも依頼が舞い込むようになりました。
同社が提供したものは「個人の尊厳」という価値でした。高齢者といえども子供とは違います。不満ながらもやむなく「名札」を受け入れていたのです。これも顧客(施設)の顧客(入居者)に目を向けることで真の価値を知ることができたのです。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授