日本発「垂直統合型自前主義」は通用するか? ニトリ海外進出企業に学ぶこれからの戦い方(2/2 ページ)

» 2013年07月24日 08時00分 公開
[井上浩二(シンスター),ITmedia]
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 問題は、次の進出先だ。新興国の経済成長の度合いと競争環境、海外工場(自社・協力)とロジスティクスセンターの立地から、インドネシア、ベトナム、中国の3カ国が、既に保有する商流と人材などの観点から判断しても、優先度を高く考えることが自然である。しかし、ニトリが選択したのは米国だった。今年の10月に1号店をカリフォルニア南部に開き、今期3店舗、その後、年5店ペースで出店し、4年後の黒字化を目指すそうだ。

 ニトリは、米国でのテストマーケティングは行っているが、拠点はない。ただし、これまで研修・先進マーケット視察の場としては活用してきている。この取り組みは81年から行われており、ショッピングモールや百貨店、住宅展示場等を視察し、毎晩レポートを書かせ、最終日には視察した店の品揃えや価格を数値化してグラフにし、ニトリとの実情比較を行うという内容である。似鳥社長も、毎年同行しているとの事だ。

 現在では、パートの従業員も加え、年間に800人が4組に分かれて参加しており、このような取り組みを重ねることで、米国マーケットの状況は相応に把握していると思われる。しかし、商流の構築から物流網の整備まで行っていかなければならず、これまでに進出している国でのビジネス展開よりも、ハードルは高いと言えるだろう。

 ニトリは、なぜ米国進出の優先順位を高く取り組むのだろうか? 似鳥社長が、現在のビジネスモデルを考える原点となった米国での成功を強く望むことは想像に難くない。ただし、トップの個人的な思いだけで賭けに出るとは思えない。恐らく、既存の米国ホームファニチャ業界では提供しきれていない付加価値を、「製造物流小売業」というこれまでにないモデルを活用して提供できるという強かな計算があるのだろう。

 ニトリが米国マーケットで成功を収めることができれば、中長期経営戦略を現実のものとする上で非常に大きな意味を持つ。そもそも米国市場自体が巨大だが、それだけでなくニトリがこれまで手を付けていない南米市場への大きな足掛かりとなる。また、アジア新興国では日本ブランドも生きるが、米国でも成功した企業としてのブランドを手に入れられれば、更に優位な立場でビジネスを展開できるだろう。更に、その後に見据える欧州、アフリカへの進出に際しても有利に働く。マーケットとしてアジア新興国にビジネスを展開することもたやすいことではないが、目先の成功の確率だけではなく、チェーンストア展開を目指した60年の計画のように長期的な視点でビジネスを創っていこうと似鳥社長は考えているのではないだろうか。

 しかしながら、米国市場での競争は厳しく、その成功は容易ではないだろう。米国の多くの企業が「持たざる経営」を重視する中、日本発の自前主義、垂直統合型の「所有する経営」で是非成功を収めてもらいたいものである。

 また、調達・生産拠点を展開する形で海外進出してきた企業、あるいは今後そのような戦略をとる企業にとっては、ニトリの手法自体とても参考になる。海外での調達・生産の仕組み作りとその過程での市場理解深耕、そして次のステップである市場としての海外開拓。ニトリもまだその途上ではあるが、多くの日本企業がベンチマークとすべき企業と言えるだろう。

 ※1 : ニトリホームページの情報より筆者が算出

著者プロフィール

井上 浩二(いのうえ こうじ)

株式会社シンスターCEO。アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)を経て、1994年にケーティーコンサルティング設立。アンダーセンコンサルティングでは、米国にてスーパーリージョナルバンクのグローバルプロジェクトに参画後、国内にてサービス/金融/通信/製造等幅広い業種で戦略立案/業務改善プロジェクトに参画。ケーティーコンサルティング設立後は、流通・小売、サービス、製造、通信、官公庁など様々な業界でコンサルティングに従事。コンサルタントとしての戦略立案、BPRなどの実務と平行し、某店頭公開会社の外部監査役、MBAスクール、企業研修での講師も務める。


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