マイナンバー制度が施行されると、その経済効果はどれくらいになるのか。須藤氏は、「マイナンバー制度を実現することで、行政コストを削減できる。コストの削減分をICTに投資することで、経済成長にも貢献できる。試算では、年間3000億円の行政のコスト削減効果が得られると報告されている」と話す。
現在のマイナンバー制度は、3年後に見直されるが、これにより官民連携が承認されるとさらに効果が期待できる。例えば医療事務関連では年間6000億円、生保・損保では年間2500億円など、トータルで年間1兆1000億円程度のコスト削減効果が得られる。これにより企業は利益率を、行政はサービスの質を向上できる。
須藤氏はさらに、「医療事務関連の年間6000億円のコスト削減というのは、低く見積もった結果。データ連係を実現し、検査や診察の重複を解消できれば、さらに1〜2兆円のコスト削減が可能になるという試算もある。これにより、また人材活用や新規事業の推進、減税などの効果も期待できる」と話している。
次に、超高齢社会の日本は社会システムをどう変革するのか。阪本氏は、「超高齢社会の日本におけるICTの活用で注目している分野は、資源やエネルギー、人口増、防災などの地球的な問題の解決に、いかに貢献できるかということ。日本は、地球的問題をICTの活用により解決し、世界からリスペクトされる存在になる必要がある」と話す。
別の側面では、ICTの活用が高齢者にもなじみはじめている。例えば70歳代のインターネット利用率は、すでに5割を超えている。こうした背景もあり、具体的な施策を展開していくことで、超高齢者社会の問題は解決できるという。特に医療や健康分野において、予防モデルの確立が重要であり、来年度までに医療の「見える化」が必要になる。
またセンサーやロボットの開発など、新たなアイデアの登場も期待できる。現在の試算では、2020年に23兆円市場になるという。そのためにはスピード感を持って、着実に実証実験を行っていかなければならない。これにより、新たなイノベーションが期待できる。阪本氏は、「これは日本がやらなければならないこと。ほかの国にはできないと思っている。逆に世界各国は、日本の動向に注目している」と話している。
もう1つの注目事項にビッグデータがある。このビッグデータは、産業発展に貢献できるのか。浜口氏は、「最近、ビッグデータという言葉をよく耳にするが、企業や役所のデータベースを見直す時期がきている。マスターデータベースがきちんと正規化され、正しい情報が蓄積されていることが必要。標準化も進めなければならない」と言う。
政府もオープンデータに注目しているが、同じものであると認識できる形で外部に公開してほしいと思っている。現状では各省庁は縦割りで、産業統計にしても各省庁でフォーマットが違ったり、データベースそのものが違ったりという問題を抱えている。こうした問題は、クラウドサービスを利用してインフラを共通化することで解決できる。
ビッグデータは、すでにソーシャルメディアの情報なども、瞬時に分析することができるようになっている。このとき性別や年齢などの条件で分類して分析することもできる。今後はオープンデータなどから派生したデータとビッグデータを連携することで、新たな価値を創出することも期待されている。
新しい技術が次々と登場する現在、CIOの役割や仕事の変化により、どんな新しいビジネスモデルを描くことができるのだろうか。須藤氏は、「社会インフラにとってICTは不可欠なものになっている。それを統轄するガバナンスがきわめて重要で、CIOの役割はますます高まっている」と言う。
最後に小尾氏は、「ビッグデータやオープンデータの活用も含めて、CIOの役割は10年前から比べると、いろいろな意味で進化している。事業継続性計画(BCP)やセキュリティ対策など、以前はCIOの役割ではなかったことにも責任を持たなければならない状況。世界最先端IT立国の実現に向け、ますます責任は重くなる」と議論をまとめ、パネルディスカッションを締めくくった。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授