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» 2014年10月15日 08時00分 公開

組織の成長は、徹底的に考え抜かれた原理原則の共有によって加速する気鋭の経営者に聞く、組織マネジメントの流儀(2/2 ページ)

[聞き手:中土井僚(オーセンティックワークス)、文:牧田真富果,ITmedia]
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一度決めたことは、不安になってもすぐには曲げずに我慢する

中土井:腑に落ちるまで考え抜いたとしても、不安になることもあると思います。そのようなときの対処法などはありますか?

出口氏(右)と聞き手の中土井氏(左)

出口:腑に落ちて、これ以外解はないという状態になったら、あとは我慢することです。人間はいくら腑に落ちていたとしても不安になるものです。ついつい我慢できなくなって、余計な手を加えてしまうこともあるかもしれません。そうしたくなるのをぐっと我慢して、一度決めたら、ワンサイクル終わるまで方針を変えないことが必要です。

 組織の経営者として考え抜いて、社員たちへ方針を伝えたのに、すぐに方針転換してしまうようでは組織が右往左往してまとまらなくなってしまいます。思いつきで言っているのかと思われてしまったら、経営者としての信用も失ってしまいます。

中土井:経営者として一貫した原理原則や方針を提示することで、組織に何をもたらすと考えていますか。

出口:安心感を生み出すと思います。一度決めたルールは絶対に変えないことが分かっていたら、社員は安心できます。

 私はスケジュールを社員のみんなにオープンにしていて、空いている時間があれば、誰でも予定を入れられるようにしています。社員が私に会ってほしい人がいれば、秘書を通すことなどなしに、自由に予定を入れていいのです。社員に勝手に予定を入れられてしまうなんて不安じゃないのかと言われたりもしますが、私は社員が入れた予定に対して、一度もノーと言ったことはありません。スケジュール通りに動けなかったのは、父親が急死したときだけです。もし、一度でも社員が入れた予定を拒否することがあれば、みんながこの予定を入れてもいいかと聞きにくるようになってしまうでしょう。決めたルールがあるのに、それに反するようなことをしてしまうと、周りの人は不安になってしまうものです。

判断を誤るのは、余計な色気が生じたとき

中土井:原理原則が一貫していると、判断を誤ることが少なそうですが、それでもやはり失敗はするものだと思います。うまくいかなかったのはどのようなときでしたか?

出口:判断の誤りのほとんどは、色気があったときです。数字、ファクト、ロジックを明確にして考えて、儲からない取引だと分かっていても、「取引を続けていれば数年後には何倍にもなって利益が返ってくるかもしれない」という欲を断ち切れなかったときなどです。若い人の「やってみたい」という情熱にほだされて判断したときも失敗することが多かったですね。余計な色気を持たずに、誰かの情熱に動かされることもなく、原理原則に従って、素直に正面から判断すると失敗をすることは少ないです。色気をすべて捨てて、シンプルに考えてこそ、本当の腹落ちしている状態を作り出すことができ、判断を誤ることもありません。

中土井:徹底した合理性を実現しているのは、数字、ファクト、ロジックのみに従った判断なのですね。お話を伺っていて、個人的な欲求や価値観についても、経営には持ち込まないという感じを受けました。

出口:経営者として判断をするときは、自分の個人的価値観や美意識、趣味などは意識して除外するようにしています。どんな人にも働きやすい職場にしたいので、価値観の押しつけは絶対にしません。

 例えば、私は毎朝新聞を読んでいるのですが、社内に向けて「社会人ならば、毎朝、新聞を読むべきだ」という価値観を押し付けることはしません。個人的な価値観を今の90人の社員に投げかけたところで、有益なことはないと分かっているからです。

徹底した合理性による判断によって、目的達成への最短距離を進む

中土井:「赤ちゃんを安心して産み育てられる社会にしたい」という思いは徹底した合理性だけで導き出されたわけではないですよね。

出口:本当にやりたいことは、合理性以前の話です。何か物事を始めるときに重要なのは、必ず成し遂げたいというパッションです。どんな組織でも、旗をあげないと人は集まりません。本当にやりたいこと、自分の強い思いを、ミッション、コアバリュー、ビジョンとして表現すればいいのです。そうやって旗をあげたら、あとは目的地を目指すだけ。目的地に行く方法はできるだけ合理的な方がいい。数字、ファクト、ロジックによる判断は最短距離となるのです。

 組織は、人に助けてもらうためにあります。人はひとりでは何もできません。人の力を借りるからこそ仕事が成り立つのです。旗をあげて、一緒に目的地を目指す仲間を集めて初めて会社は成り立ちます。リーダーの条件は、やりたいことがあるということに尽きます。人が力を貸してくれるほどのパッションを持ち、徹底した合理的な手段で目的地を目指すのです。

対談を終えて

 出口さんとお話をされた方は、その教養の深さや幅広さに誰もが舌を巻くのではないかと思います。そして、その考え抜かれた合理性と一貫性には、ブレを一切感じさせない力強さを感じます。合理性と一貫性によって、一本筋が通っていらっしゃる出口さんがライフネット生命をやりたいと思われたきっかけが、谷家衛さんとの偶然の出会いであり、「よし、やろう!」と思ったことに理屈はないとおっしゃっている点に事業を興すとは一体どういうことなのかの真髄が現われているように感じます。「始めることに理屈をつけて、推進の段階で論理と一貫性がなくなる」のではなく、「始めることには理屈はなく、推進の段階では論理と一貫性を徹底する」というこのシンプルな哲学は私たちにとても大切なことを示唆してくれているように思えてなりません。

プロフィール

中土井 僚

オーセンティックワークス株式会社 代表取締役

社団法人プレゼンシングインスティテュートコミュニティジャパン理事。書籍「U理論」の翻訳者であり、日本での第一人者でもある。「関係性から未来は生まれる」をテーマに、関係性危機を機会として集団内省を促し、組織の進化と事業転換を支援する事業を行っている。アンダーセンコンサルティング(現:アクセンチュア株式会社)他2社を通じてビジネスプロセスリエンジニアリング、組織変革、人材開発領域におけるコンサルティング事業に携わり2005年に独立。約10年に渡り3000時間以上のパーソナル・ライフ・コーチ、ワークショップリーダーとしての活動を行うと共に、一部上場企業を中心にU理論をベースにしたエグゼクティブ・コーチング、組織変革実績を持つ。


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