Mustでは主に組織の要請を自分ごととします。
Will Can Mustシートは目標管理シートでもあるので、イノベーターとマネジャーとの間で厳格に運用されています。リクルートの全社員はマネジャーの力を借りて自分のリストラをするわけです。それも半年毎に。
こうした個人レベルでの仕事のリストラやリ・ポジションを徹底することで、イノベーターとマネジャーの間でイノベーションに対する動機が養成されていくのです。
イノベーションは、上手くいくか、いかないか分からないことに対して組織の資源を活用して普及させなければならない、という二重の矛盾を抱えています。つまり、その本質が矛盾の塊なのです。何をするにしても矛盾だし、アイデアひとつ承認して貰うにしても、組織の壁が立ち塞がります。それは、既存事業が強固で磐石であればあるほど、イノベーターとマネジャーの前に厳然とそびえ立つのです。
では、どうすればいいのか? それは、無責任かもしれませんが、マネジャーは「そんなもんだ」と高をくくってしまうことです。「投資家からあまり期待されないものだ」「ハグレ者でもいいかな」「評価はなかなかされないな」「結構周りにいろいろ言う人が多いな」「数字で説明せよって言われても、それができたら苦労しないよ」……。
まあ、そんなもんだと捉えてしまったら、肩の力がふっと抜けるはずです。矛盾をマネジメントして、清濁合わせ飲むのです。組織は常識を育む装置です。常識で縛ろうとするのはごく自然です。常識からの開放がイノベーションそのものであり、それに抗うのがマネジャーの役目です。であるならば、矛盾は当たり前。それを完全に自分に腹落ちさせて、物事を前に進めたほうが建設的です。
数年前話題になった、YouTubeの動画があります。「裸の男とリーダーシップ」と名付けられたその映像は、イノベーションにおけるマネジャーの役割や重要性を考えさせられます。
市民がくつろぐ公園の芝生の斜面で、ひとりの上半身裸の男が突然踊り始めます。周囲の人はびっくりしますが、男は楽しそうにひとりで踊り続けます。暫くすると信じられない光景が映像の中で繰り広げられます。なんと、別の男が一緒に踊り始めるのです。その後、ひとりまたひとりと加速度的に増えていき、ついには公園にいるほとんどの人たちが大盛り上がり状態になるのです。
最初の上半身裸の男が「ヨソ者」「バカ者」「若者」、つまりイノベーターです。2番目に踊りだした人が正にマネジャーです。マネジャーには共感し盛り上がることが必要なのです。ついにはイノベーションが大きなムーブメントになります。
皆さんの会社のイノベーション・マネジャーが誰かをイメージすることができますか? イノベーターを無邪気に「ノセ」、自らも「ノリ」、片や冷徹に組織の力学を使い倒し、イノベーションをガンガン進めていけそうな人たち。「あいつが当てはまりそう」そうイメージできたらシメタものです。
エリート社員にイノベーションは起こせません。イノベーションはヨソ者、バカ者、若者が起こすものであり、事業の本流をいくエリート社員とは一線を画するものです。では、イノベーション・マネジャーをエリート社員がするとどうなるでしょうか?
エリート社員は、経営者とのパイプも太く、組織内のキーパーソンとの関係も豊かで、経営資源の動員力もあります。エリート社員はイノベーション・マネジャーの資質ありです。ただし、イノベーターに共感し盛り上げることができる人である、という前提条件は譲れません。
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ エグゼクティブプランナー
1986年リクルート入社、企業の採用支援、組織活性化業務に従事。2001年、HCソリューショングループの立ち上げを実施。以来11年間、リクルートで人と組織の領域のコンサルティングに携わる。2012年より現職。イノベーション支援領域では、イノベーション人材の可視化、人材開発、組織開発、経営指標づくり、組織文化の可視化などに取り組む。
著書:「リクルートの現場力」、「なぜエリート社員がリーダーになると、イノベーションは失敗するのか」(ダイヤモンド社)
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授